本研究期間、3年間を通して、7編の著作、論文を発表し、世界文明交流史上における日本近世数学が複層的であることを漢訳版西洋数学書や朝鮮復刻本も含む中国、日本の数学書、注釈書の蔵書調査、内容調査を通じ解明した。2015年度は、研究の最終年度であり、5回の学会発表(うち2回は国際学会)に参加し、中央アジアもしくは南アジアで発祥したと考えられる「格子乗算」が、地球を東回りで中国から日本へ直接伝播した数学と西回りで西欧経由で伝播した数学が、中国を経て伝わったものの2つに分類されることを論議した。同じ中国から伝播した数学でも、和算家の異なる階層に受容されたことを用語の違いから筆者の仮説は受け入れられた。仮説段階での城地茂(2014)『和算の再発見』化学同人。も、日本経済新聞全国版2014年7月6日25面、2014年8月20日夕刊6面に二度に渡って紹介された。 この「格子乗算」は、従来の中国数学の暦算(天文学を支える数学)ではなく、13世紀にモンゴル帝国によって東西の交流が盛んになり、商業が発展したが、それを支える新しい数学が発展した。ここから、13世紀の中国数学の新潮流が世界文明よりみた数学史として重要な地位を占めることが分かり、今後の研究へと続ける予定である。 また、2015年8月3日から8月6日にかけて、京都大学数理解析研究所において「数学史の集会@RIMS」を主催し、ドイツ、中国の研究者も招き、世界文明の交流としての数学史研究のあり方を国際的に討論することができた。
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