研究課題/領域番号 |
25350383
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
丹治 明 日本工業大学, 工学部, 講師 (70217214)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 機械技術史 / 工作機械 / 3Dモデル / 3D-CAD / 東京瓦斯電気工業 |
研究概要 |
日本工業大学工業技術博物館には、約300点以上の工作機械や昭和初期に描かれた数多くのオリジナルの工作機械製作用図面約200機種分が収蔵されている。工作機械に盛り込まれている秀逸な機械構造は、コラム内部など機械部品に覆われた箇所に設置されていることが大半であり、その形状や動作などの詳細な観察をすることは困難である。そこで本年度の研究では、これらの工作機械製作用図面を基に機種ごとの全ての機械部品を3D-CADにより3Dモデルを作成することで、それらの観察を可能とし、機械構造を可視化した。 本年度では、東京瓦斯電気工業株式会社造機部設計課が昭和9年に設計し、製造・販売された大型強力旋盤の3Dモデルを制作した。研究対象となった大型強力旋盤は、ベッド長は8000mm、最大加工径960mmを超え、ヘッドストック内の歯車には、モジュール9・10・14の大型歯車が組み込まれた大型部材を高精度に旋削する機能を有する特徴をもつ、富国強兵時代を象徴する工作機械のひとつである。大型強力旋盤の図面全539枚のデジタル化を施し、部品761種をSolidWorksにて3Dモデルを完成させ構造の調査を実施した。 過去に設計・製作され、名機と評価されながらも、現存しない昭和初期の工作機械が3Dモデルで現代に復元され、任意の角度・断面で観察可能となることは、現在の技術者の創造力の育成に貢献し、機械技術史研究の確立と新技術創造手法の確立が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成14年8月に廃業した工作機械メーカー(日立精機)にて保存されていた大正期~昭和初期頃まで設計・製造された工作機械、約200機種のなかから、東京瓦斯電気工業株式会社製のベッド長:8000mm、最大加工径:960mmを超える大型強力旋盤(部品761種)を選定し、3Dモデルを完成させ構造の調査を実施した。 本研究を開始する以前にも東京瓦斯電気工業株式会社製のフライス盤2機種の3Dモデル制作を実施し、1機種あたり1500点を超える3Dモデルの制作とアセンブリに実績は有していたが、組み立て図と一部部品図の欠落等があり、大型強力旋盤の3Dモデル制作には想定外の時間を要してしまった。欠落している部品図を補い、完成させた3Dモデルから、「大出力の動力の伝達機構」・「大型のサドル・テールストックを自動送りする巧みな機構」・「大型歯車の掛け替え機構」・「高剛性を実現した長尺ベットの構造」などの昭和初期の技術者達が考案した秀逸な機械技術が明確に観察することができた。3Dモデルで表示した際に隠れてしまう部位・微細な加工箇所も省略することなく、1年度で1機種の3Dモデルを完成させたことは計画どおりである。 本年度完成させた3Dモデルは、多階調のモノトーンで表現されており、「3Dモデルは、機能・機械要素等で分類・着色し多様な目的に応じた観察・調査にも対応可能とする。」とした当初の目的を充分には満たしていないのが現状である。「機能」の分類調査が不充分であったことが原因と考察される。また、本年度は、工作機械メーカーや工作機械作業現場において聞き取り調査等を実施する計画であったが、3Dモデル制作に注力したため、調査の実施が滞ってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までに本研究者は、「昭和11年・東京瓦斯電気工業製・S型フライス盤」と「昭和14年・東京瓦斯電気工業製・T型フライス盤」の3Dモデルを制作し、平成25年度に「昭和9年・東京瓦斯電気工業製・大型強力旋盤」を完成させた。平成26・27年度には、技術的進化を具体的に調査・観察するために類似形式で製造年代の異なるフライス盤や旋盤、そしてボール盤・中ぐり盤・研削盤など他機種の工作機械の3Dモデル制作をさらに追加して行う。併せて、制作した3Dモデルの工作機械に関連する写真資料・文献資料等を探索し、可能であれば製作当時の工場従事者などから聞き取り調査も実施する計画である。また、市販の「画像データから2D-CAD変換ソフト」・「2D-CADデータから3Dモデルへの変換ソフト」の本研究への有用性をも検討する。さらに、日本の工作機械の変遷を解明するため基礎となった英国に保存されている歴史的価値のある工作機械の調査と3Dモデルの制作も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由として、組立図・部品図の一部が欠落した機種を研究対象に選定し、3Dモデル制作に多大に注力してしまったため、当該年度に計画していた「現地調査」や先述の「変換ソフト」の有用性の検討の実施が不十分となってしまった。そのため、これらの調査費用となる「旅費」と変換ソフト購入費用の「消耗品費」の支出が当初の計画どおりに執行できなかった。 制作された工作機械の3Dモデルを活用・考察して、現在の技術者の創造力の育成に貢献し、機械技術史研究の確立と新技術創造手法の確立するために、それら工作機械が創られた時代背景や製造現場の状況の調査は不可欠である。本研究を推進するためにも、平成26年度以降は、3Dモデル制作をこれまでどおりに実施し、「時代背景等の調査」および「変換ソフトの検証」を積極的に行う。
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