最近の縄文時代研究においては植物栽培技術がすでに存在したとして、生業観全体を見直す研究が進展している。そこで、本研究は日本列島における動物家畜化の初源(特にイノシシ)を探るため、動物遺体に残る病理痕を対象として家畜化現象を探ることを目的として行った。 3年間の研究の中では、1)現生イノシシおよび比較対象としてイヌ・ヒトの病理学に関する文献調査、2)考古学における古病理学的文献調査、3)現生動物標本を対象とした病理の観察・骨計測学的調査、4)遺跡資料を対象とした古病理痕の観察・骨計測学的調査、5)成果の公表を計画して行った。1)および2)では1669件の文献を収集・入力した。3)では動物学者・獣医学者・猟師の協力を得て現生イノシシ・ブタを収集し、骨格標本を作製した。また、これら標本の解剖では歯科学研究者・動物考古学者の協力を得て、唾液腺と歯石の関係を確認することができ、さらに歯石付着歯の組織観察を目的に切片を作成することも行った。さらに、DNA研究者の協力により現生飼育イノシシ1個体の分析結果を得ることができた。他方、歯石から微化石を採取する手法の開発を目的として、業者に委託して現生イノシシ・シカの歯石サンプルからプラントオパールが採取可能かどうかの実験を行った。4)ではイノシシとイヌを対象に歯石、エナメル減形成、骨折、先天的異常の有無などの古病理痕を抽出する調査を伊豆大島下高洞A・D遺跡、鳥取県青谷上寺地遺跡、千葉県須和田遺跡第6地点で行った。また、古病理痕を有する伊豆諸島の縄文イノシシ遺体と奈良時代のイヌを対象に、AMS年代測定および炭素窒素安定同位体分析を東京大学総合研究博物館に依頼して結果を得た。最終年度には、遺跡資料として千葉県須和田遺跡、千葉県郡遺跡、鳥取県青谷上寺地遺跡、新潟県藤塚・三宮貝塚の調査を行い、また上記で得られた成果の一部を論文や学会で公表した。
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