従来の博物館の映像資料は通常のカメラで撮影されてきたため、カメラが向いている視野内しか記録していなかった。しかし、文化的景観や無形遺産は視野外にも興味深い対象物が存在する。また、全国の博物館には、多くのプラネタリウムのドームスクリーンが設置されているが、ほとんどの館で星空しか投影されていない。そこで本研究では、2015年に開創1200年を迎えた高野山の文化的景観と行事を高精細のドーム映像で記録し、全方位のデジタルミュージアムを構築することにした。具体的には、(1)ドーム映像の特徴を明らかにすること、(2)ドーム映像を活用したプラネタリウム番組やアプリの開発すること、さらには(3)4Kを超す超高精細映像の撮影するシステムの開発を行った。 ドーム映像の特徴として、我々は全方位の映像を見るために視聴者が頭を動かすことに注目し、頭の動きと臨場感の関係を高野山のドーム映像などを用いて調べてみた。その結果、頭の動きが臨場感を高めることが明らかになった。通常の映像がカメラマンによって撮影された映像を受動的に視聴するのに対して、ドーム映像では視聴者自身が能動的にドームスクリーン上の対象物を選んで視聴しており、実際の現場での注視行動に近い。そこで、この特徴を意識して高野山での撮影を行い、高野山のプラネタリウム番組やアプリを制作した。現時点で、和歌山大学のドームスクリーンで投影できるドーム映像の解像度は4Kカメラの縦の分解能である2Kであるが、広いドームスクリーンでは非常に粗い。人間の肉眼分解能に近づけるには縦方向で8K以上が必要になるが、その解像度を持った映像機器はまだ市販されていない。そこで、複数台のカメラの映像を合成することで縦方向7Kのドーム映像の撮影を実現した。この解像度により、細かなものまで表現できるようになり、スポーツ映像の記録に応用する研究に発展することができた。
|