平成25年度からのまとめとして、①従来、曖昧であった「コミュニケーション障がい者」という概念に含まれる人びとの実態を把握し、②コミュニケーション障がいの自覚がない人(以下、非障がい者と略記)が放送音声を聞いた時の理解の程度を、合成音声(フォルマント合成音声、波形接続型合成音声)と肉声、肉声ではアナウンサーの男女差やプロソディの有無などで確かめた。そして、これと比較して③コミュニケーション障がい者の内、聴覚失認を伴う高次脳機能障がい者(以下、障がい者と略記)、特に失語症者の理解のようすを同じ視聴覚実験で調べた。
反応は高次脳機能障がいの有無によって差が認められた。変化したものに:④非障がい者では女性の肉声が男性の肉声よりも理解しやすいという結果が出たが、障がい者では変わらなかった。また⑤非障がい者では視覚情報の付加によって理解が上がるが、障がい者では視覚情報の付加に影響されなかった。一方、反応が変わらなかったものは:⑥肉声と合成音声(フォルマント合成、波形接続型合成)で聞きやすさに差があるらしく、⑦リズムの付加などのプロパティの変化は、障がいのある/なしに関わらず理解に影響を与えるという結果が得られた。
合成音声に注目すると、フォルマント合成音声よりも波形接続型合成音声が聴き取りやすいことが示唆された。これを確かめるためは、さらに検証が必要だが、この実験の結果からは、本来、障がい者を含む多様な人が利用する生涯学習施設では、人の肉声を直接、あるいは肉声を録音して放送することがもっとも理解されやすく、合成音声を使う場合には波形接続型合成が望ましいことが示唆された。生涯学習施設の職員にとってフォルマント合成は波形接続型合成よりも簡便だが、使用は慎重であるべきだ。
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