研究課題/領域番号 |
25350407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州保健福祉大学 |
研究代表者 |
山内 利秋 九州保健福祉大学, 薬学部, 准教授 (20351942)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 博物館 / 地域社会 / 少子高齢化 / 問題解決 / 展示 / 写真 / アーカイブ |
研究概要 |
「縮退期」における我が国地域社会の諸問題に対して、博物館の有している様々な機能を活用していくという点から、特に中心市街地活性化に関与させ、その効果を明らかにし、評価する事を目的としている。 平成25年度は若年層が減少し、高齢化が進行している中心市街地において、空き店舗を活用した展示を主体とした企画を実施し、これに対して高齢者の反応を評価していった(延岡展示室企画展『商店街モノクローム』)。大正末期から昭和40年代の写真・市街地地図・生活道具等をここで展示したが、その際周辺に居住する高齢者に関与してもらう事によって、コミュニティに対する役割意識や「生きがい」への意識の変化を期待した。 本研究ではこうした地域コミュニティに作用する博物館機能の一定の関与を「コミュニティキュレーション」と呼んでいるが、ここには単に展示を観てもらうという行為ではなく、むしろ企画を構成する主体者側にたってもらうという能動性を促している。 高齢者に焦点を絞ったためにアンケートは60歳以上の人々に依頼した。母集団が少なかったものの、一定の良好な結果が現れつつある。展示を観てワークショップに参加した高齢者や、さらに展示準備に関与した高齢者からのインタビューからは、活動そのものがQOLの向上にも大きく関係していた事が明らかになりつつある。 ただし問題としては、空き店舗の老朽化が当初想定以上に進行しており資料展示環境が必ずしも良くなかったのと、商店街の交通量(歩行者)が予想よりはるかに少なく、また宣伝の問題もあって来場者が限られてしまった。この結果当初計画していた博物館所蔵資料を活用しての展示企画が今回は一部にとどまってしまった。そのため企画を本来の予定したものから急遽変更せざるを得ず、高齢者からのアンケート回収が低かったり、VAS調査やCVM調査の実施が困難であったため、実施を平成26年度に先送りせざるを得なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中心市街地での商店街空き店舗を活用しての企画展示を実施したが、当初の見込みに比べ空き店舗の老朽化が著しく進行していた。これは計画当初段階では判明しておらず、店舗を借り上げて以降明らかになったものである。壁面の腐食・カビや漏水による湿度上昇があり、資料保存の観点から、自治体博物館資料を借用して展示活動を実施するのは難しいと判断された(それでも地元博物館の好意により温湿度管理の影響を受けにくい安定した民俗資料を少数借用し、展示に活用している)。従って25年度の展示については、複写した写真資料・パネルの活用を中心として、立体的な資料展示をあまり行っていない。実際、展示した写真・パネルも湿気を帯びてしまい何度も交換せざるを得ない状況が発生してしまった点は深刻であった。 また平成25年度の記録的な気温上昇は集客にも影響を与えており、ただでさえ人通りの少ない日中の商店街において、高齢者の歩行移動が困難になっている状況が発生してしまい、来場者が皆無の日もあった。地元新聞等の報道にも取り上げてもらい、実質90日間の開場期間にも関わらず、高齢者に対するアンケートが50人以下にとどまってしまったのはその事を物語っている。イベント的な活動を多く実施する事によってアンケート数を引き上げる事は可能であるが、それによって日常的な場面における博物館機能が失われてしまう恐れもあり、この点は26年度からの検討課題でもあろう。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究活動で不足していた調査分析をすすめるだけでなく、確認できたもう一つの点で、いわゆる地域コミュニティの記憶に関わる写真を展示した場合、写真に記録された過去のそれぞれの年代で関心を持ち・共感する年齢層が明らかに異なっていた。第二次大戦中・戦後の時代の情報は、近現代史における博物館の展示テーマとして重要な位置を占めているが、実際に体験した世代が比較的多かった頃に比べ、現状はその世代の人々が減少した事によって、共感する同時代というよりも歴史的過去として認識されてしまう傾向が見られている。むしろそれよりも後の時代である「昭和レトロ」として消費される対象でもあった昭和30年代や、それどころか昭和40年代・50年代までもが同時代的な「懐かしさ」の領域に含まれてきている。世代的には前期高齢者となる60才前後の世代とその下の50才代であり、この年齢層はまちづくり活動においても中心的である。後期高齢者からは過去の写真をみる事によって「まちの将来を見てみたい」というQOL向上にとってプラスになる方向性が、アンケートからもインタビューからも明らかになったが、それよりも下の世代においては、博物館の機能がどのように関与しているのかを確認していく必要がある。このように地域コミュニティに関わる過去の展示は、対象となる世代にピンポイントな情報を提供する必要があり、26年度はこの状況を踏まえた実験的研究を行おうと考えている。 さらに中心市街地のもう一つの問題である少子化に対して、地域外からの子供が単に遊べる場所として展示空間を認識するのではなく、高齢者とのコミュニケーションを通じて世代間の継承を行ったり、様々な学習活動を行いその成果を展示等の企画として表現出来る空間として構築する事が、子供の中心市街地への定着を促す事につながるのかどうかを確認していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で借り上げている商店街空き店舗を実際に活用しはじめてみると、昭和40年代の木造モルタル建築である建物の老朽化が当初考えていたよりも進行しており、内装の腐食・ドア及びシャッターの修理困難な不具合等の問題箇所が確認された。こうした状況においては25年度予算の中にある展示具等の取り付けをすぐさま行う事が出来ないと判断され、実際に資料も湿気を帯び、変形してしまう様な状況であったために、このままでは本来予定した実験的な調査分析を遂行する事が出来なかった。従って、まず初年度では繰越予算の大半を占める展示具については借り上げた空き店舗での展示状況(特に温湿度管理の状況)を期間を通じて把握し、それから2ヵ年度目に準備する方が適切と判断し、繰越に至った。 企画を実施する会場となる空き店舗の状況を明確に確認できたので、それを踏まえての資料展示を実施する。この際展示用品として必要なパーテーションや展示ケース、吊り金具等をフルに活用して、25年度の研究で表出した新たな課題をも含めながら、企画活動を実施し、その効果を測定していく。
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