本年も引き続き傾動隆起が生じる場での山岳河川発達のモデル実験を行った。河川による下刻は、削剥速度と隆起速度との相対的な大小関係が効いてくる。装置の都合上、隆起の可動レンジが制約されるので、隆起の効果をより明らかにするには削剥速度を抑える必要がある。そのため、降雨装置の水圧を下げて実験を行い、段丘に着目して観察を行った。 現実の(自然界の)河川では、隆起が活発な地域で河岸段丘がよく発達する。先行研究におけるモデル実験では、急激で1回きりのフォーシング(ここではベースレベル低下変動)や、連続的なフォーシングに対しての河川の応答とその際に発達する段丘について調べられていたが、本研究では傾動隆起に対する応答を調べることを目的に、下刻速度を定量化した。 段丘が発達する場において下刻速度を見積もる際、野外調査では、段丘の離水年代と現河床との高低差を用いて下刻(侵食)速度を見積もることがある。モデル実験では、発達過程の途中を見ることができるので、以下の2つの方法で侵食速度を計算した。(1)野外で行われる手法と同様の、段丘の形成時期と河床からの高低差から求めた侵食速度と(2)実験中に得られた地形データ(DEM)に基づいて、一定時間経過後の差分からもとめた実際の侵食速度。(1)で求めた侵食速度は、段丘形成後の経過時間が短いほど大きく、その後、その速度が収束していく傾向にあり、フィード研究で指摘されているSadler effectと同等の見かけの侵食速度低下がみられた。(2)で求めた侵食速度は、短いタイムスケールで振動を示した。(2)は河床の高さの変動によるもので、この変動と同程度以上のスケールで時間平均をとると時間スケールに応じて変動の効果が相対的に小さくなり(1)の結果となり、野外調査でも同様の理由によることが示唆される。
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