一般に都市が存在すると都市特有の気候が生じる。都市が郊外と比べ気温が高くなる現象はヒートアイランド現象と呼ばれ、晴天静夜に明瞭に起こることが知られている。一方、盆地では山谷風循環が存在し、夜間周辺斜面から盆地底に向かって山風が吹き下る。この現象も放射冷却と関わりが深く、ヒートアイランドが明瞭に発生する気象条件下で、生じやすいことが知られている。これまでの研究では、盆地に流れ込む川沿いに山風が強く吹くこと、盆地底に位置する都市内外の気温分布では山風が吹いてくる方角に冷気が侵入して来ていると見なすことができる等温線の分布が得られている。ところが、盆地底の河口付近の郊外の地点における観測では、日没前後風速は一端は増加するものの夜間通して強風が吹くのではなく、深夜になると風速は弱まっていた。ところが気圧の変化を見ると日没前から日の出までの期間は気圧は増加傾向であった。放射冷却が続く限り山風は一晩中生じていてもおかしくないのだから冷気の強風域は盆地底ではなく,盆地上空に吹いているためであろうことを推測した。本研究では上空の風の測定は難しいので,気圧の測定により推定する。気圧変化の傾向は一般場の変化もあるので、盆地周辺の山頂に気圧計を設置し、盆地底の気圧から山頂の気圧の値を引いた値で冷気の流入を推定した。1年間の継続観測の結果の解析によれば、日没前後盆地底の地上付近で吹く強風は徐々に弱くなっていくにもかかわらず気圧が増大することから、強風域が盆地底地上付近から上空に移動したことが推察できた。自動車による移動観測によると、河口付近から市街地に流入する高気圧域の存在が確認された。さらに市街地における地上と中層建物屋上の気温及び地上気圧から屋上気圧値をもとめたところ、同標高の河口付近郊外の値と同程度であり、冷気の流入を妨げる気圧分布となっていないことが分かった。
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