本研究の目的は,海崖を乗り越えて海岸段丘上に定置したと考えられる津波石に焦点をあてて,琉球列島南部の宮古諸島と八重山諸島に襲来した過去最大の津波営力の差異について検討を行うことである.調査対象地域は,宮古諸島に属する宮古島・下地島と八重山諸島に属する石垣島・黒島の4島である.平成28年度は,平成25年度~27年度までに調査対象とした4島の津波石について,津波石の体積(V)や海崖高さ(H)に関する再調査・分析を行った. Vは高精細地形測量(TLSおよびSfM測量)による3D解析を用いて求められた.長径3 m以上の津波石に限ると,宮古島(東平安名崎)ではH=17 mの段丘上に14個,下地島(西海岸)ではH=10 mの段丘上に1個,石垣島(南海岸)ではH=3 mの段丘上に4個,黒島(南海岸)ではH=3~4 mの段丘上に6個,計25個の津波石が確認された.津波石が崖下から供給されたと仮定すると,津波石が段丘上に乗るためには,重量が大きい津波石ほど,あるいは海食崖が高いほど,より大きな津波のエネルギーが必要になる.そこで,4年間の津波石のデータを整理し,津波石の重量(W)と海崖の高さ(H)の関係から各島に襲来した過去最大の津波営力を推定すると,下地島>宮古島>石垣島>黒島の順となった.この結果は,宮古諸島に八重山諸島よりも大きな規模の津波が襲来した可能性を示唆するものであり,石垣島で最も大きい津波が襲来したとされる1771年の明和大津波とは異なる結果となっている.
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