本研究では、海成段丘面の旧汀線高度、段丘面の変形、沿岸の離水ベンチなどの変動地形的特徴をもとに、沿岸地域における隆起運動と断層活動との関係を具体的に検証した。その結果、積丹半島、下北半島東部、三陸海岸、能登半島などにおいて、沿岸域周辺にこれまで認識されてこなかった活断層が存在し、それらの活動によって沿岸の隆起運動が継続してきたことを提示することができた。 積丹半島の南西沿岸部には海成段丘面が発達し、離水ベンチが連続的に分布している。これに対し、北東沿岸部ではいずれの地形も確認できない。このような変動地形学的特徴をもとに、積丹半島西方の海底活断層の活動と地形発達との関係を論じた。下北半島東部では、海成段丘面が大規模に海側に撓曲していることが見逃されてきたため、海岸線と並走するような活断層の存在を認識できなかったことを具体的に提示した。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震は、日本海溝軸とは異なる位置に存在する長大な海底活断層の活動によって発生した可能性が高い。なお、三陸海岸周辺は東北地方太平洋沖地震発生の前後の期間も含めて沈降傾向にある。この地域では、海成段丘面が撓曲変形しており、沿岸域の海底活断層の活動によって隆起がもたらされている可能性が高い。能登半島南東部では、海成段丘面の旧汀線高度の変化や、連続的に分布している離水ベンチの特徴をもとに、陸域から海域へ連続するような海底活断層が存在することを明らかにした。 沿岸域の隆起運動を理解するためには、その近傍に存在する海底活断層を正しく評価することが重要である。とくに、海岸線と並走する活断層は見逃されている可能性が高い。日本列島の沿岸域には、未だに十分に把握されていない海底活断層が存在していると考えられる。日本列島の形成や地震被害軽減に係る重要な情報を得るためには、変動地形学的研究を推進してゆくことが必須である。
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