研究課題/領域番号 |
25350461
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
浦谷 規 法政大学, 理工学部, 教授 (80126268)
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研究分担者 |
小沢 正典 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (50152484) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 公的年金システム / マッケンドリック 偏微分方程式 / 財政検証プログラム / マクロスライド政策 / 所得代替率 / 少子高齢化 / 長寿リスク |
研究実績の概要 |
公的年金システムは急速に進む少子高齢化によって、その永続性が心配されている。我国では, 厚生労働省が 2004 年、2009 年、本年と5年ごとに財政検証を実施100年安心で所得代替率5 0%を計算するプログラムを公開し、パブリックオピニオンを取り入れようとしている。本年度 はそのプログラムを C 言語で統一し、100年後の年金資産必要額に収束する「マクロ経済調 整率」を求めるアルゴリズムにセカント法を導入した。その結果、従来は100年分のプロジェ クションを計算するのに10数分必要としていたものが、2分程度で収束することになった。こ の結果従来の経済シナリオを3つ人口に関するシナリオを3つの合計9種類のシナリオによる1 00年間の年金収支プロジェクションしかできなかった計算が,確率変動を含めた収支予測がで きるようになった。 同時に進めた理論的な研究は、破綻しない公的年金システムの実行可能性に、人口変動のコホー トモデリングを組み込んだモデルを開発した。実行可能性はリスク中立確率では自己調達戦 略とマルチンゲール性から必要条件をもとめた。人口のコホートモデリングはマッケンドリック 偏微分方程式に Method of Characteristics を用いた近似解を求める方法を組み込んだ。 人口コホートが100年という長期でも出生率を基礎として予測すべき年数は20年間のコホー トの不確実性であり,生存確率の不確実性の影響の評価が重要であることも明らかになった。一 方、経済シナリオは数パーセントの成長率でも100年後には現在の100倍になる大きな変動 を確認したモデルを構築した。 公的年金のマクロスライド政策によってこれからの不安事態である長寿リスクに対しては不十分 であり,金融工学的方法である長寿デリバティブの利用を複合的に利用する必要があるとの認識 に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年9月28日に平成26年度の財政検証の結果レポートと検証プログラムがネット上で 公開された。平成24年度公開されたプログラムと計算時間の比較をすると5分の 1以下に短縮化されている。特に、収支計算が著しく短縮しているのは収束計算に我々の研究 が提案したセカント法に類似した方法を用いたためと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
計算速度の改善は分析シナリオを多様化させることが可能になった。特に経済状況を厚生労働省レポートのように8通りに加えてオプションケース3通りに対して、人口に関する人口問題研究所のシナリ オをベースに数10種類に上る計算をしている。 特に注目すべきはケース H 比例年金の積立金の 2051 年は 98.8 兆円あるにもかかわらず,国民 年金の立金がなくなり以降は賦課方式に移行する破綻状態になることである。このとき完全賦課 方式に移行し所得代替率は 44% から 38 - 35% に下降し、生活レベルの悪化が心配される。 対象としたシナリオは人口に関して死亡と出生を長期的に観測する基本データを用いているが、これから 予想される長寿リスクの確率的変動を前提としていない。確率的変動に対するリスクを限定し、 市場化する金融工学的方法、長寿スワップ長寿債券などが市場機能を利用して解決する方法であ る。特に,企業の終身年金に関しては欧州の企業が近年多く利用していて,その理論的解析が急務である。
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次年度使用額が生じた理由 |
公的年金のリスク管理に金融工学のスワップ契約がSurvival swap として市場に浸透しつつあり、これを研究に組み入れる必要があるから。
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次年度使用額の使用計画 |
海外の共同研究者との研究に使用する。 研究者:Dr.Menoncin Francesco イタリア ブレシア大学准教授と年金の最適問題に関して共同研究を行う。
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