本研究は謂わゆる「年金パズル」として知られる個人年金保険の需要減少の現象を理論的に解明しようとしたもである。 経済理論におけるライフサイクル仮説からは年金パズルは説明できない。さらに確率制御から生存中の破産確率が最小となる ポートフォリオを求めると、最適解には個人年金保険が含まれない。個人年金保険は長寿リスクを減少させる最適ポートフォリオに含まれないことから、年金パズルが理論的に説明されるとBayraktar and Youngは説明した。我々のモデルでも明らかになる年金パズルの原因は、時間の経過により死亡確率が増加し年金価格が減少するために年金の購入はその時点が遅くなればなるほど価格が下がるというデフレ現象があり、年金の最適購入時刻が存在しないことから説明される。 以上の理論は長寿リスクに年金保険が有効でないとしているが、その前提には個人の借り入れを含まないとしている。本研究では、借入に対する制約をしない効用最大化問題を安全利子率と借入金利のリスクプレミアムを含めて解析した。さらに、強制加入の社会保険としての公的年金制度の制度的分析と理論的解析を行った。公的年金制度の長期モデルは最適ポートフォリオを線形計画法で求めるモデルも構築した。また、そのリスク管理にはオプション理論を用いた目標年次の所得代替率を確保するポートフォリオ戦略モデルの構築及びシミュレーションを行った。シミュレーションでは100年安心とする100年後までの所得代替率を50%以上にする政策は経済シナリオに依存し明確な政策的指針が明らかにならない欠点がある。
|