研究課題/領域番号 |
25350467
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
安田 聡子 関西学院大学, 商学部, 准教授 (90376666)
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研究分担者 |
馬場 靖憲 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80238229)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アカデミック・アントレプレナー / モビリティ |
研究概要 |
研究計画で挙げた二つのリサーチ・クエスチョン(RQ1、RQ2)について、以下のような成果が得られた: RQ1. どのような経歴や評判を持つ研究者がアカデミック・アントレプレナー(AE)になる蓋然性が強いか。 国立大学法人T大学教員約550名の経歴データベースを完成させ分析を加えた結果、モビリティとAEになる可能性の間に有意な相関が見出された。この成果を海外の学会で報告して出版のオファーを受け、現在執筆中である。また、モビリティを細分化し分析を深化させたところ、企業家精神を発揚させるモビリティと、そうではないモビリティがあるのではないか、という新しい仮説を見出した。検証のために研究対象を広げ、国立大学法人O大学教員約400名の経歴データベースを構築した。この結果、年度末には約950名の国立大学法人教員の経歴データベースが完成した。 RQ2. AEとなった後に、彼らの価値観や行動規範はどのように変化し、イノベーション・システム(System of Innovation:SI)にどのような影響を及ぼすか。 研究試料の共有関係(Material Transfer:MT)の変化から大学研究者の価値観や行動規範を分析して、欧米で指摘されている「マートン・ノルム(科学者コミュニティを律する規範)の衰退」が日本でも起こっているのかを検証した。欧米では、科学者が商業活動にかかわりAEになると、マテリアルや研究データの交換に消極的になる等の現象が起きて、科学者同士の協力活動が停滞し、結果としてSIに負の影響が及ぶことが懸念されている。質問票調査による約800名の調査結果を分析した結果、科学の商業化(これは、AEが増えることも含む)の活発化は、科学者個人の行動への直接作用とは別に、科学コミュニティのノルムに影響を与えていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書の「平成25年度の計画」の項に記述した内容のうち、以下のことが達成できた:(1)ひとつの大学について、AEグループに特徴的なキャリアパスを推定する、(2)他の主要大学のAEおよび非AEに関するデータを収集して、データベースを充実させる、(3)AEの価値観と行動様式の変化を広くとらえる。 このように、計画調書に挙げたことのほとんどを達成し、また学会発表や論文執筆で現時点での成果も公表していることから、自己評価は「おおむね順調に進展している」である。 達成できなかったのはインタビュー調査である。海外の研究者から論文執筆のオファーを受けたため研究計画を微調整した。データ分析で得られた成果を先に刊行し、その後にインタビューで分析内容を検討・補強する予定である。研究を進める順番が前後しただけであり、最終年度まで踏まえた研究計画に変更はない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査分析により、モビリティが高い研究者は企業家精神も高まり、企業家活動を活発に行うことが実証できた。今後は、それによって研究者の個人特性がどのように変化するのか、(1)人的資源と(2)ノルムの2つに焦点を当てながら分析を進めていく。 (1)については、モビリティが人的資源の形成に及ぼす影響を探求する。(2)については、バイオ系研究室に対する質問票調査から、モビリティが高い大学研究者は一定の水準以下のインパクト・ファクターの学術雑誌には論文を出版しない事実が見出されている。この事実は留学先の研究室におけるPI(Principal Investigator:研究代表者)の指導によることが推定されている。外国研究室に滞在することによって,研究者のインセンティブとノルムが変化し、変化した行動特性がその企業家活動にどのように影響するか、国際学会等における海外研究者との議論を通じ分析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定の洋書の出版が遅れたため。 出版され次第、可及的速やかに購入予定である。
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