地震後の復旧作業の安全性を確保するにあたり、本震により被災した建物の最大変形または残留変形から余震による倒壊の可能性を判別できると有用であろう。本研究では、この観点から実験とコンピュータシミュレーションを行ったものである。ここでは紙面の都合から、後者の結果について述べる。 本研究では実施した実験結果に基づいて木造住宅の耐震要素のばね特性を決定し、それをコンピュータプログラムに組み込んで目的とするシミュレーションを行うことを目指しているが、実験から木造住宅全般を代表する特性を得るところまでは未だ至っていない。一方、近年になって巨大な振動実験設備が建設されたことから、木造住宅そのものを実際に地震により生じた地盤振動により揺らして破壊に至らしめることが可能となり、実際に実大振動実験がいくつか行われた。今回、これらの結果を利用して目標とした検討を行うこととした。まず、6軒の住宅の実験について著者が開発したプログラムによりシミュレーションを行い、シミュレーション結果が実験結果と良く一致することが確認できた。 次に、日本全国の設置されている地震動の観測網のデータから顕著な地震(気象庁の命名地震)における地震動の本震と余震のデータを収集した。実大振動実験からばね特性を取り出し、このばね特性の力に係数を種々かけることにより、本震で被災して、傾いた住宅を再現した。これに余震による地震動を住宅に加えたシミュレーションを行い、本震でどの程度傾いたものが余震で倒壊したのかについて調べた。その結果、本震での傾きが1°程度でも余震で倒壊した例(東日本大震災)があった。しかし、この場合の余震の震源は、本震の震源と全く異なる領域で生じており、地震学では余震と見なされない希なケースであった。この特殊な例を除くと本震での傾きが5°程度以下であれば、余震で倒壊しなかった。つまり、5°が復旧作業安全性の目安である。
|