本研究は,断層破砕帯で破壊された微小な石英破断面の水和層厚さから,断層の最新活動時期が推定できるかどうかを検討するのが目的である。 石英表面の形態的特徴を電子顕微鏡で観察したところ,最近まで繰り返し活動している断層ほど摩耗・侵食の無い新しい破断面を持つ石英粒子に富む結果が得られた。一方,実験的研究からは,断層面において,水和したシリカの潤滑が地震性滑りに大きく寄与している可能性のある証拠が得られており,断層運動が水和層の成長を促進させている可能性もある。そこで本研究では,断層運動が石英の水和層厚さに及ぼす影響を評価するため,二次イオン質量分析装置によってCsイオンビームを石英表面に照射し,発生するH,Si,O,Alの二次イオンを分析することによって水和層の厚さを推定する手法を適用した。 チャート及び花崗岩中の石英を用いた分析では,熱水変質及び鏡肌を伴う断層面の石英は,Hイオン濃度が表面からの深さ数μm程度まではそれ以深よりも数倍大きいのに対し,断層運動を被っていない自然の岩石表面,研磨した岩石内部の面,及び活断層露頭から抽出した新しい破断面を持つ石英粒子については,Hイオン濃度が深度方向にほとんど変化していないことが明らかとなった。したがって,熱水活動を伴うような地下深部での(相対的に時代の古い)断層運動の場合は,水和層の成長が促進される可能性があるが,地表付近での断層運動の場合は,破砕した石英は水和していない新しい破断面を保持していることが分かった。 本研究ではさらに,火山ガラスを対象とした水和層厚さと年代との関係について検討したほか,破砕帯内物質の主成分・微量元素分析や電子スピン共鳴信号測定等に基づき,断層運動,熱水変質,風化といった要因ごとの水‐岩石反応の痕跡の特徴を議論し,論文等に取りまとめた。
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