研究課題/領域番号 |
25350516
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
横澤 宏一 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (20416978)
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研究分担者 |
大槻 美佳 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (10372880)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 短期記憶 / α波脳律動 / 脳磁計 / 初頭性効果・新近性効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、考案したシーケンシャルな記憶課題で顕著に生じる初頭性・新近性効果(記憶対象を連続して与えると、最初や最後の記憶対象の記憶成績が良好となる効果)をプローブとして(1)短期記憶に関与する脳部位と動的処理過程の解析、(2)加齢の影響の検証、(3)記憶障害の鑑別法の提案を計画している。当該年度はその2年目であり、(1)短期記憶に関与する脳部位と動的処理過程の解析を完了し、(2)加齢の影響の検証を行った。 記憶を構成する「記銘・保持・想起」の3段階のうち、記銘時のα波律動振幅が記憶成績と相関すること、正解する場合は不正解する場合に比べて記銘時のα波律動振幅が大きいことを見出したことが昨年度の主要な成果であった。本年度は以下の実験によりそのメカニズムを検証した。第1に、記憶対象の個数を固定せず、6-9個の間でランダムに変え、被験者が記銘の終了を予測できないようにした。記憶対象数が少ない場合、初頭性・新近性効果は明瞭に表れたが、記銘後半におけるα波抑制は見られなくなった。このことは記銘後半のα波抑制が記憶そのものではなく、想起開始の注意によることを示唆する。第2に、記銘の前半から中盤にかけてのα波律動の増大を示す脳部位をSPMと呼ばれる方法で推定した。その結果、α波律動の増大は後頭部の視覚野で生じていた。このことからα波律動の増大は、記憶に関係のない視覚入力の能動的抑制を反映することが示唆された。 以上の結果と、「正解する場合は不正解する場合に比べてα波律動振幅が大きい」という知見を考え合わせると、記銘時のα波律動振幅が記憶能力の指標となることが期待できる。そこで、さらに記憶能力の衰える高齢者群を対象に比較実験を実施中である。α波律動が記憶能力の指標となることが明らかになれば、これを用いて記憶障害の鑑別法が提案できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢の影響の検証はまだ完了していないが、記憶障害の鑑別法の見通しを得ているので、ほぼ予定通りに進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
高齢者群は当初2群(40歳代と60歳代)で計測する予定であったが、働き盛りの40歳代を被験者として募集することは非常に困難であることがわかったので、まずは定年後の60歳代を対象として結果をまとめ、20歳代との群間比較を行うものとする。 研究の主体は引き続き脳磁計とする。まだ高齢者群の計測を継続しているので、予算を多めに繰り越した。世界的なヘリウム資源の不足により平成27年度は脳磁計の使用料が高額となる可能性がある。研究の推進に支障をきたさないよう、繰越金を有効活用する。 明治大学の小野研究室との共同研究や、フィンランドのアアルト大学とのディスカッションも引き続き継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
高齢者群の計測がまだ途上であり、次年度にも脳磁計を使用した研究を継続する必要がある。脳磁計は液体ヘリウムを冷媒として使用するが、世界的なヘリウム資源の不足により脳磁計の使用料が大幅に増額される事態も考えられる。この状況に鑑み、次年度の研究に支障をきたさないよう当該年度は多めに繰り越しを行ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を有効活用して脳磁計を用いた研究を完遂する。また未発表成果も多いため、学会発表や論文の執筆を積極的に行う計画であり、その費用として充当する。
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