研究課題/領域番号 |
25350523
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
坂本 二郎 金沢大学, 機械工学系, 教授 (20205769)
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研究分担者 |
須釜 淳子 金沢大学, 保健学系, 教授 (00203307)
酒井 忍 金沢大学, 機械工学系, 助教 (80196039)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 生体モデリング / ひずみ計測 / 生体軟組織 / ダミーモデル / 褥瘡 |
研究実績の概要 |
本研究では,人体の皮下組織の構造・形態を模倣し,皮下組織の応力状態を評価できる人体腰部ダミーモデルの開発を目的としている. 平成25年度の研究では,米国立医学図書館の人体解剖データベース Visible Human Project に含まれる男性の腰部断面画像に基づき腰部ダミーモデルの原型を作成した.この原型から石膏で鋳型を作り,骨盤模型を固定してシリコンゴムを流し込んで,生体に忠実な筋肉層と脂肪層の2層構造を有する腰部ダミーモデルを製作した.これを床に寝かせた際の内部圧力と接触圧力を計測し,対応する有限要素モデルの解析結果と比較したところ,定量的な一致までは至らなかった.腰部ダミーモデルと,有限要素モデルの定量的一致を実現するため,平成26年度の研究では,腰部有限要素モデルと同じ形状・形態が腰部ダミーモデルにおいて実現するように改良を行った.比較対照のために用いた腰部有限要素モデルは市販の人体全身有限要素モデルTHUMS(トヨタテクニカルディベロップメント社製,AM50 pedestrian V1.4,2006)から腰部のみを抽出し独自の改良を加えたもので,同様の身長・体重を有する成人男性がマットレスに仰臥位で寝た際の圧力分布を比較して,定量的な妥当性を確認した.この腰部有限要素モデルから骨盤の表面形状データーを抽出し,これに基づいて3Dプリンターにより骨盤モデルを作成した.さらに,平成25年度に開発した技術を用いて,腰部有限要素モデルに基づき腰部の原型を作成し,鋳型を作って骨盤モデルを固定しシリコンゴムを流し込んで,腰部ダミーモデルを作成した.以上により,解析用の腰部有限要素モデルと同じ形状・形態を有する実験用の腰部ダミーモデルを得ることができた.これらに同じ負荷条件を与えて,内部圧力や接触圧力を比較すれば,その定量的な有効性を検証することができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,シリコンゴム中に埋め込んで圧縮応力だけでなくせん断応力も計測が可能な三次元力覚センサーの製作を挙げていた.平成25年度は自作できなかった三次元力覚センサの代替として,市販の小型圧力センサを内部に埋め込んで計測を行ったが,幾つかのセンサにおいて信号が得られなくなる不具合が発生した.これは,シリコンゴムを流し込み硬化させる過程で,圧力センサが大きく変形したり被覆が剥がれたりして接触不良が生じたためである.平成26年度は,三次元力覚センサを試作してシリコンゴムブロックに包埋し,単純な負荷条件下でその動作を検証したが,電気抵抗式のセンサでは接触不良が生じ易く,十分な信頼性が確保できないことがわかった.臨床と同じ状況で使用できる腰部ダミーモデルとするには当初のチューブ方式の力覚センサに拘らず,従来技術で実現できる信頼性の高いセンサーを用いることがより有効であるとの結論に至った. 一方,製作した腰部ダミーモデルの有効性の評価については,平成25年度は有限要素解析との比較において,定性的な一致しか見られなかった.これを受け,平成26年度では比較対照のための腰部有限要素モデルに対して,その形状・形態が一致するように新たに腰部ダミーモデルを作成した.骨盤については,使用した3Dプリンターの制限によりその材料はポリエチレンで,骨よりはやや弾性率が低く,その影響が懸念された.しかし,骨盤の材料特性を変えて行った解析では,軟組織に発生する応力への影響はわずかであり,問題は無いことがわかった.また,有限要素モデルについては,同等の身長・体重を有する成人男性が仰臥位で寝た際の接触圧力分布を実験と解析とで比較し,定量的な一致から,その有効性を確認した.このことより,腰部ダミーモデルと有限要素モデルとで定量的な一致が確認されれば,腰部ダミーモデルでの有効性も確立することになる.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,腰部ダミーモデルの軟組織中に埋め込むセンサーとして,実用性と信頼性の観点から看護の臨床における褥瘡発生の危険性評価に実績のある携帯型接触圧力測定器PalmQ(ケープ製)のセンサーパッドを適用することとする.これは空気圧式のセンサーパッドであるためシリコンゴム中に埋め込んでも接触不良の心配が無く,確実な測定が期待できる.褥瘡ケアの現場でもよく用いられており,特殊な装置を必要とせず,取扱いが簡単であることも大きなメリットである.しかし,これは圧力の測定だけが可能で,深部での褥瘡発生に関係するとされるせん断応力については測定できない.軟組織内部のせん断応力については,市販のせん断ひずみゲージをPalmQのセンサーパッドと併用することで計測する方法を検討する.腰部ダミーモデルに埋め込む前に,せん断ひずみゲージを貼付したPalmQのセンサーパッドを使って,圧力とせん断応力の同時計測できるかを,単純な荷重条件下での力学試験により検証する.その上で,腰部ダミーモデルに埋め込んでの検証実験を行うこととする. 腰部ダミーモデルについては,平成26年度の研究で有効性が確認された腰部有限要素モデルに精度良く似せたものを,それまでに確立された手法で製作し,その過程で上記のセンサーパッドを仙骨下と大腿骨大転子下に埋め込んで装着する.平成26年度までの研究で作成したダミーモデルは仰臥位の寝姿勢を想定したものであったが,平成27年度は側臥位についても検討するための改良を行う.具体的には,骨として骨盤だけで無く大腿骨の近位部も作成し,側臥位で褥瘡が発生し易い大転子下にもセンサーを配置する.仰臥位と側臥位における軟組織の内部応力状態を,既に作成済みの腰部有限要素モデルと定量的に比較し,最終的に,本研究で開発した腰部ダミーモデルの有効性を検討してその結果を報告する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は,国際会議の参加旅費と学会の参加登録費が当初の予想よりも多く発生し,骨のモデル作成に3Dプリント業務の発注(その他)が発生したため,その分,謝金と物品費の使用を控えたが,結果的として物品費の使用が少なくなり,わずかに1,458円だけ次年度使用額が発生した.ダミーモデル作成の手法が確立し,作成時の試行錯誤が少なくなったため,当初の予算よりはシリコンゴムの材料費が少なく製作できるようになったことも,物品費の使用が少なくなった理由である.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,腰部ダミーモデルの骨の部分として,従来の骨盤に加え,新たに両足の大腿骨近位部を追加する.これにより,骨については3Dプリント業務を発注するため,今回生じた次年度使用額については,その他(具体的には3Dプリント業務の発注)の一部に充てる.また,腰部ダミーモデルの製作に必要な材料費に加え,比較検証のための有限要素解析を効率良く行うためのコンピュータの購入を予定しており,旅費の使用を減らして謝金の使用を無くし,その分を物品費とその他に充てる.
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