研究課題/領域番号 |
25350524
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
薄井 雄企 信州大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (00467169)
|
研究分担者 |
羽二生 久夫 信州大学, 学術研究院医学系, 講師 (30252050)
塚原 完 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (00529943)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 生体物性 / ナノマテリアル |
研究実績の概要 |
初年度行った検討から肺関連細胞においてエンドサイトーシスがカーボンナノチューブ(CNT)の取り込みに重要であり、その中でもクラスリン介在エンドサイトーシスが最も重要であることが示されたが、その一方でレセプターの特定には至っていない。なぜなら、昨年度の実験結果からCNTの細胞内取り込みが分散剤によって全く異なることが示されたからである。牛胎児血清(FBS)やゼラチン、ポリソルベート80などでは細胞内に取り込まれる一方で、カルボキシメチルセルロース(CMC)ではほとんど細胞内に取り込まれないという結果が得られた。この結果からわかる事はCNTの細胞内取り込みは純粋に細胞がCNTだけを認識しているという事ではなく、分散剤とCNTが何らかの複合体を作り、この複合体を細胞が認識しているという事になる。そして、その認識はCMCで分散されたものは取り込み対象となっていないことになる。現在、この認識メカニズムを解明するために複数のエンドサイトーシスレセプターのsiRNA実験を行っているが、思うような成果が上がっていない。大きな理由が2つ考えられる。1つはCNTはもともと単一の形状でないため、サイズに違いのあるCNTが同じメカニズムで取り込まれている保証がないことである。もう1つは細胞による違いである。我々が既に報告したように神経芽細胞でCNTはどのような分散剤を使った場合でも細胞内に取り込まれないが、肺胞上皮細胞でもやはり取り込まれない。さらに、神経芽細胞ではFBSで分散したCNTで細胞に取り込まれない細胞毒性も観察されており、それぞれのケースでの検討が必要であろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度行ったヒトの気管支上皮細胞であるBEAS-2BにおけるCNTに対するエンドサイトーシスの結果は第41回日本毒性学会で「BEAS-2B細胞の多層カーボンナノチューブの取り込み」として発表し、そのデータにさらにヒト悪性中皮腫細胞であるMESO-1でのデータを合わせた結果をBioMed Research International誌に"Endocytosis of Multiwalled Carbon Nanotubes in Bronchial Epithelial and Mesothelial Cells."として発表した。また、このエンドサイトーシスで始まる細胞死がオートファジーであることもInternational Journal of Molecular Sciencesに昨年度、総説として" The Role of Autophagy as a Mechanism of Toxicity Induced by Multi-Walled Carbon Nanotubes in Human Lung Cells."として発表した。 一連の発表はCNTによる細胞毒性はエンドサイトーシスを介して細胞内に取り込まれたCNTがオートファジーのパスウェイを刺激して生じるというCNTの細胞毒性の基本メカニズムを示すものであり、現在、CNT以外でも行われているナノマテリアルによる毒性のメカニズム解明の一助となろう。ただし、神経系の細胞で見られたような取り込まれない細胞での細胞毒性のメカニズムやマイクログリアで見られた取り込まれても死なない細胞でのメカニズムはさらなる検討が必要であろう。 さらにバイオマテリアルとしての検討からマウス前骨芽細胞のセルラインであるMC3T3-E1におけるCNTの細胞の取り込みが細胞密度によって影響することややはり分散剤によって増殖促進と成り得る結果も得られており、細胞でのCNTの認識がエンドサイトーシス以外のレセプターでも行われていることが示唆され、毒性以外の視点でのCNT認識レセプターの解明の重要性が示せた。 ただし、CNTのレセプターの特定は概要で示したような個々の細胞やCNTのサイズなどの影響による特異性も含めた検討が必要であり、最終年度の検討課題と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
「概要」で記載したように、取り込みのレセプターが細胞ごとによって違う可能性と不均一なCNTが原因で、レセプターの阻害試験による検証が困難なことを考慮し、最終年度はCNTの取り込み量が最も多く、かつ、同一の細胞でありながら血清の有無でCNTの取り込みが全く異なるBEAS-2B細胞のCNTレセプターの特定を最優先する。このレセプターが特定できれば、他の細胞での同セレプターを確認し、細胞ごとのレセプターの違いの有無の確認や発言量と取り込み量の確認、タイムラプスを用いたおよそのCNTサイズと取り込みの関係を確認することができる。 また、「現在までの達成度」で示したように神経系細胞で見られたような「細胞に取り込まれないケースでの細胞死」や「取り込まれても死なないケース」の検討が必要である。さらにCNTを加速しているバイオマテリアルとしての研究を補完するためにもCNTが生理活性を示すためのレセプターについても明らかにする必要があり、汎成長因子阻害剤などを用いて、CNTと分散剤の複合体が成長因子のレセプターに認識されているか否かの検証を行う。 H27年度は本課題の最終年度であることから6月に米国のワシントンD.C.で行われるTechConnect World Innovation Conferenceと第42回日本毒性学会、11月に京都で行われる第37回日本バイオマテリアル学会で成果を発表し、バイオマテリアル系の国際誌への投稿を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
英文校正や論文投稿費などの費用が計画より低く抑えられた。また、最終年度に国際学会の発表を打診されたためH27年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
国際学会で研究成果を発表するための旅費に充てる。
|