本研究では,無拘束・無意識に心疾患の兆候を検出可能とするための基礎技術開発を目指している。心疾患には何の前兆もなく突然死に至るケースが多くあり、長期間長時間の生体データロギングが有力な防止手段となりうる。生体周囲の衣類を伝播する拡散光に着目して、長期間計測の壁となるセンサ装着の煩わしさをなくし、無意識、無拘束、無侵襲的に血液循環機能検査が可能なシステムを創出し、心疾患等の早期発見や健康管理に貢献する手法を見出すことを目的としている。 本年度は光によるヘモグロビン濃度計測の高精度化を目指して,布媒質の影響をファントム実験で詳しく検証した。まず、理論による計測特性の解析を試みた。生体組織中の光伝播解析においてはモンテカルロ法を用いた。布、空気、表皮、真皮、脂肪、筋肉の層構造を考慮し、各層の厚みや光学定数が測定値に及ぼす影響を定量的に把握した。可視と近赤外領域の解析を進め、送受光器間距離による変化、浅層と深層の定量法を検討した結果、送受光器間距離を5~8㎜程度として布媒質の光学定数を推定したうえで、30~35mm程度離間したセンサの情報を補正することが測定に適していることが明らかとなった。次に、血液を用いたファントム実験を行った。光計測は空間分解法の原理に基づいている。多波長LEDを光源に使用し、光センサを光源から2つの距離に配置して、表層の厚みなどに応じて最適な距離の受光データを選択して測定できるようにするともに、血液の濃度や散乱体量を変化させながら実験できるようにした。また、血液の酸素化状態は血液ガス分析装置で確認した。その結果、表層の光学定数の推定が酸素飽和度の定量化に必須であり、それに適したセンサ配置なども明らかとなった。
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