本研究はナノ秒電気パルスを用いた新しい癌治療法のための基盤を確立することを目的としたものである。昨年度は、ナノ秒電気パルスに対する細胞感受性と細胞死の様式の選択にはカルシウム依存性が見られ、ナノ秒電気パルスによって生じるカルシウム流入が細胞死の様式決定にも強い影響を与えている可能性を示した。そこで本年度はまずカルシウムによって影響される細胞内応答反応について解析を行った。その結果、ネクローシスに伴い生じるタンパク質ポリADPリボース化やAMPK活性化はカルシウム依存性を示す一方、カルシウムの有無はナノ秒電気パルスによるストレス応答活性化にほとんど影響を与えなかった。ナノ秒電気パルスで誘導されるストレス応答は生存率への影響が低い可能性が示され、ナノ秒電気パルスの癌治療効果のメカニズムを考える上で重要な知見を得た。続いてナノ秒電気パルスの癌治療効果を検証するため、ヒト癌細胞株による細胞塊(スフェロイド)の作製を試みた。ヒト大腸癌由来HCT116ならびに子宮頸癌HeLa を用いることで、培養条件下におけるモデル腫瘍として使用可能なスフェロイドを再現性良く得られるようになった。そこでナノ秒電気パルスをスフェロイドに印加しライブイメージングを行ったところ、細胞死に基づくと推察されるスフェロイド構造の崩壊が観察された。続いてスフェロイド中の総ATP量を測定することでスフェロイドを形成する細胞の生存率を解析したところ、ナノ秒電気パルスによる顕著なATP量低下が示され、スフェロイドにおいてもナノ秒電気パルスの細胞死誘導が発揮されることが明らかとなった。
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