研究課題/領域番号 |
25350536
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
戸田 尚宏 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (00227597)
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研究分担者 |
小山 修司 名古屋大学, 脳とこころの研究センター, 准教授 (20242878)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | X線CT / 散乱線利用 / 減弱係数 / 推定分散 / 有効推定量 / Cramer-Rao下界 |
研究実績の概要 |
昨年度、再構成誤差の低くなる条件の検討を行うために、撮像対象を簡略化し、均質で細いシリンダに対してペンシルビームX線をを照射し、透過した直接線と、シリンダ周囲の円筒状検出器により計測された散乱線から最尤法により減弱係数を推定する実験系を考案した。この体系では、直接線検出器には散乱線が混入しないため、散乱線補正は必要ない。従って従来の考えに従えば、減弱係数の推定精度は直接線検出器のみで十分な筈であり、散乱線の測定値をこれに加えれば推定誤差がさらに減少する事をモンテカルロ計算により数値的に示した。この事は散乱線の計測によって被曝軽減効果がある可能性を示唆している。 本年度は、この細シリンダによる再構成問題を理論的に取り扱うために、さらに簡略化して「T字路モデル」を構成した。T字路モデルにはn個の光子が入射し、確率pで直接線が観測され、残りが散乱線として観測される。直接線、散乱線の光子数は2項分布で表現できる。これをk個連結したk連T字路モデルで減弱係数の有効推定量の分散(Cramer-Raoの下界)で評価すると、散乱線を計測する検出器を増やすほど、この分散が小さくなる事を理論的に導いた。すなわち、これまで、CTの領域において、不要とされて来た散乱線には、対象の減弱係数に関する情報が含まれている事を理論的に主張する事が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
散乱線補正に関する先行研究は、散乱線を不要なものとして除去することに専念しており、除去率100%ならば、それ以上の改善はない。一方、散乱線イメージングにおける先行研究では現行のCTとは得られる画像情報が別のものであるという認識が一般的である。従って、散乱線を用いる事で、直接線だけを用いるより再構成精度を上げられる事が理論的に言えるならば、大きな認識転換を当該分野に与えられる筈である。昨年度の数値実験結果は、その理論の存在を示唆するものであったため、本年度はその模索に大きな努力を注いだ。 対象物体内で入射した光子が直接線と散乱線に分けられる現象を抽象化したモデルとしてT字路モデルを構築した。これは入射したn個の光子が減弱係数に応じた確率pで直進し直接線として観測され、それ以外は散乱線として観測される。直接線として観測される光子数をxとすると、その数はpをパラメータとする2項分布に従う。T字路モデル1個では散乱線はn-xとなるため、これを測定しても、その情報は直接線のみと同じであるため、推定値の分散の減少はない。しかし、2個以上T字路モデルを連結したモデルでは、各T字路モデルからの散乱線を計測する事で、減弱係数の分散が少なくなる事が不等式の形で与えられることを理論的に示した。その際、推定量として、理想的な有効推定量を用い、その分散がCramer-Raoの下界で与えられる事を利用した。また、入射光子数に応じ、達成できる推定分散の限界も与えた。これは極めて原理的な主張であり、被曝低減のための新たな指針を与え得ると考える。 これらの成果が現在論文にまとめている最中であり、さらに、RSNA(北米放射線学会)、IEEE Medical Imaging Conference(医用画像国際会議)に投稿中である。これらのことから、本年度は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの成果は散乱線利用によるCTの性能向上のための一つの原理を抑えたと言って良い。しかし、実際の装置の装置の上でこの原理の効果が表れるか否かに関しては未だ明らかではない。従って、その検証に向け、まず、理論においては、細シリンダーの体系の上で、光電効果、光子のエネルギーを導入し、エネルギーの関数としての減弱係数の推定精度が散乱線の計測によって向上する事を証明する。 そうした理論の考察を進めて行くと同時に、これまでと同様、主にモンテカルロシミュレーションを用いて実際のCTにおいて、複数の散乱線検出器を配した体系を用い、各種の最適化アルゴリズムとともに、再構成シミュレーションを試みる。また文献の検索で明らかとなったNortonのモダリティや、X線回折現象によるイメージングとの関連性に関しても検討を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は理論研究を進めるため、計画の変更から次年度使用額が多くなったが、本年度は、理論展開の目途が立ったため、モンテカルロ計算用の計算機を導入することで、愛知県立大学の研究遂行においては、未使用額が数万円に抑えられた。しかし、愛知県立大学の研究代表者の理論研究が本年度にずれ込み、その結果を受けて研究を進める名古屋大学側で計画の変更を必要としたため、予定していた執行が遅れ、20万円の未執行額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年は最終年度であり、既に複数件の国際会議への投稿を行っているため、採択の折には旅費が多く発生する。また、IEEEあるいはMedical Physics誌への投稿準備中であり、英文添削、研究協力者への謝金などを予定している。また、27年度に導入した計算機の保守費用が発生の可能性もある。名古屋大学側では新たな理論的予想を受け、炭素棒などを対象とした実験計画を立て、予備実験を行うための設備などの購入を計画している。
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