一昨年度、再構成誤差が減少する条件を明確化するために、撮像対象を均質な細シリンダとして、これにペンシルビームX線を長軸方向の一端から射入し、他端で直接線を検出する体系を考案した。この直接線検出器には、殆ど散乱線が混入しないため、従来の考え方に基づけば、減弱係数の推定精度限界の理想的な状況と言える。しかし、細シリンダの周囲からは散乱線が放射しており、その計測を付加的に行う事で、入射光子数を増加させなくても、この理想的な状況よりも、精度を上げられるのか、という点に関しては、被曝の減少という直接的な利点が生まれる可能性があるにも関わらず、本研究に至るまで議論がなされなかった。 昨年度はこの細シリンダ体系に対する理論解析を行うため、T字路型の確率モデルを定式化した。さらに、複数個(k個)の散乱線検出器を持つ体系を表現するために、T字路モデルを1つのセグメントとして、これをk個縦続接続したk連T字路モデルを構築した。T字路モデルにおいては、有限個の射入光子に対して、直進と散乱の分岐確率を減弱係数で表し、二項分布による確率関数と、有効推定量の分散、即ちクラーメルの下界を用いて精度を解析的に導出した。その結果、散乱線検出器の個数(k)の増大と共に、精度は単調に向上していく事が明らかになった。 昨年度構築したT字路モデルではこの光電吸収の効果を無視していたが、光電吸収のある場合でも、散乱線を計測する事の効果は望まれるものの、不明のままであった。そこで本年度は、1つのセグメントでの光子の相互作用として、光電吸収の効果も取り入れ、T字路モデルを拡張したπ字路モデルを定式化し、フィッシャー情報行列を用いて理論解析を行った。その結果、光電吸収のある場合でも、散乱線を測定する事の効果があり、散乱線検出器数の増加とともに単調に精度が向上する事が示された。
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