本研究では,生体組織と人工物を融合した新しい人工臓器技術を人工心臓を対象に実施するもので,大動脈基部装着式補助人工心臓の開発と,人体をリード線として活用する人体通信を応用した新しい経皮的情報通信システムの開発を目指すものである. 大動脈基部装着式補助人工心臓では,ヤギ下行大動脈に開発した大動脈基部装着式補助人工心臓を装着し,体循環,冠循環,脳循環の血行動態変化を測定した.その結果,体循環系はポンプ拍出量の増加にもかかわらず拍動性を維持しており良好な末梢臓器補助を実現できることを確認した.一方,脳循環と冠循環ではともに循環血流量の低下することが明らかになった.その結果,大動脈に直列に接続する新しい補助循環は,可能な限り冠循環,脳循環の手前にポンプを設置することが必要であり,大動脈弁位置近傍が最も適切なポンプ設置位置であることを明らかにした. 人体通信を応用した新しい経皮的情報通信システムでは,体内通信ユニットに装着するチタンメッシュ電極の組織学的特性について検討した.チタンメッシュ電極の通信ユニットへの装着を想定し,チタンメッシュ電極の片面をシリコーンゴムで閉鎖してラット皮下に植え込み12週間の植え込み実験を行ったところ,チタンメッシュ電極周辺部には毛細血管が見られ細胞が生存しているが,チタンメッシュ中央部は細胞数が減少し結合組織部分が死滅・空隙化しているところが多く見られた.チタンメッシュ電極周辺部の細胞は生存することができることより,実際にチタンメッシュ電極を体内通信ユニットに応用した場合であっても,本電極の最大の目的である生体との機械的安定な結合は十分に得られるが,チタンメッシュ電極誘導組織の質的改善は今後の検討課題であることが明らかになった.
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