研究課題/領域番号 |
25350541
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
長尾 光雄 日本大学, 工学部, 准教授 (90139064)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 計測 / 音響 / センサー / 生体工学 |
研究概要 |
中高齢者が歩行や運動機能に障害をもたらす進行性疾患の一つに変形性膝関節症があり,これの早期診断を支援するための計測システム構築を目指しており,これに用いるセンサ部の試作開発が目的である. 次にその内容を述べる. (1)8チャンネル増設し16チャンネルのデジタル信号処理(DSP)を構築,センサの周波数応答特性を試験するインパルス信号発生装置,およびこれらの解析処理用プログラムソフトを準備した. (2)骨関節音響センサ(BJAS : Bone-Joint Acoustic Sensor)と呼び,構造は皮膚接触部が細いプローブ,その反対側には薄膜圧電素子を配置した.大きさは直径26mm,高さ9mmの寸法で,12個試作した中で計測用には4個選定した. (3)周波数応答特性はコヒーレンスで評価し2~4,6~8,および10~14kHzで優れており,この範囲を解析周波数に定め,解析の対象は2~4kHzにした.なお,センサ間の校正には応分の予算処理を認めた. (4)計測環境における系統的なノイズレベルは下げられたが,実計測時の信号ノイズとの見分けには工夫の必要性を認めた. (5)連携研究者からの助言により屈伸角度センサの試作も試み,ゴニオメーターとの比較をしたが,試作品の工夫を認めた. (6)同意を得た被験者は,20歳代のスポーツ未経験者,同じくスポーツ継続者,40歳代後半のスポーツ継続者,および通院中の者で実施した.スポーツ継続者は荷重屈伸で有意に発信の数が際立っていた.通院は荷重屈伸において,6~8kHz帯の発信が際立って多く観察された. (7)隣国住民の変形性膝関節症発症とその予防医療との関連を調査するため,医工学部教授の研究室を訪問した.また,医療機器展示会にて,本BJASのデモ展示と開発パートナーを探した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように (1)診断に用いる骨関節音響センサ(BJAS : Bone-Joint Acoustic Sensor)とその解析手法を主な目的としているため,その第一歩であった被験者に装着したセンサから,先行研究していたセンサに比べて感度特性の改善が見られた.信号解析には工夫を認めたが,先行研究の技術は活かされた. (2)試験装置のチャンネル数増設およびセンサの周波数応答試験装置も予算処置により準備ができた. (3)計測環境における機器の系統的なノイズ低減は改善したが,屈伸時のノイズとの見分けや除去には工夫を要する. (4)発信との同定のための角度計は当初予定していなかったが,連携研究者のアドバイスから骨音判別の必要性から試作を試みた. (5)膝関節への負荷条件と年齢条件が異なる被験者において,スポーツ継続膝と通院膝では荷重屈伸において,時間軸発信の形態,6~8kHz帯の発信の差異は観察することができた. (6)隣国の骨関節疾患も我が国と同じで,本研究開発の重要性を認識するに至った.
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今後の研究の推進方策 |
(1)骨関節音響センサ(BJAS : Bone-Joint Acoustic Sensor)間の周波数感度とコヒーレンスは現状でも十分であると想定しているが,進行状況から更なる改善要求があった場合には,複数を同期校正するための新たなシステム設計を要することは分かっているが,これらを予算には含められない.特化した技術を持つパートナーの協力が必要である. (2)連携研究者から,膝関節を模擬した生体モデルによる周波数感度とコヒーレンスを調査するよう提案があった.これを実施し,BJASの製作や解析に活かす必要がある. (3)BJASの系統的なノイズ対策の他に,発信強度が弱い信号はノイズに隠れるため,被験者からの発信データにおいて診断の要になる場合には検討する.同じく,骨鳴り音や筋腱音との区別の工夫も要する. (4)屈伸角度の計測に用いた市販品では,被験者への装着負担が大きく,その代用品を試作した.発信を同定するまでの角度計には至っていないが,これを,ジャイロ計と方位計により実施できないか検討しており,その可能性が見込めたので,これを確認する. (5)連携研究者からの提案,および海外の有識者の助言により,膝関節の年齢が,青年,中高齢,および後期高齢では,負荷が作用した屈伸動作時に膝関節の靭帯強度,筋肉の強弱,軟骨の磨滅などが異なることから,発信と同時に関節搖動も評価の対象に含める.これについては,MEMS加速度計の装着により確認する. (6)臨床所見のK-Lグレードの異なる被験者数から,BJASシステム(角度計,加速度計も含む)による解析結果との関係性に関わる計測の試行を計画する. (7)国内国外の展示会に出展し,研究の継続性と社会貢献のためにパートナー探しも進める.
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