研究課題/領域番号 |
25350544
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80341080)
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研究分担者 |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
氏原 嘉洋 川崎医科大学, 医学部, 助教 (80610021)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 内皮細胞 / 単球 / メカノセンサー / TRPV2 / 細胞骨格 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
動脈硬化の発症初期には血液中の単球が血管内皮細胞に接着し、その間隙から浸潤して内皮下組織に出る。この浸潤現象は、単球及び内皮細胞間隙の接着分子による“化学的”な制御として解釈されることが多いが、実際には両細胞の接触部における微細な膜の変形・伸展といった“物理的・機械的”な解釈が必須である。我々は、既報の機械刺激感受性分子(メカノセンサー)のうち、Ca2+の流入経路としても機能するTRPV2に着目し、内皮細胞における役割を検討してきた。前年度の研究において、TRPV2のノックダウン(以下KD)により、細胞の動きが阻害され、反対に、活発に動く細胞ではTRPV2発現が上昇していることから、TRPV2は細胞が動く為に必要な分子であることが示唆された。本年度は、TRPV2の作用機序を明らかにする為、1) 細胞骨格系、2) 細胞-基質接着系、及び3) 細胞周期系に着目した。1)では、TRPV2-KDにより仮足形成の場である細胞膜とアクチン骨格を繋ぐERMのリン酸化が抑制されており、また、アクチン骨格の重合核となるArp2のリン酸化や細胞膜への移行も抑制されていた。一方、Arp2やERMの上流制御因子であるRac1, Cdc42には顕著な差は認められず、Rac1/Cdc42非依存的な新規細胞内シグナル機序が考えられた。2)では、TRPV2-KDにより焦点接着斑に存在するtalin, vinculinが強く染色されており、基質との接着性増加による細胞運動の阻害という機序が示唆された。また、3)では、TRPV2-KDにより増殖能の抑制が認められた。以上より、TRPV2はCa2+の流入を介して、アクチン細胞骨格の制御による仮足形成(Arp2, ERM)を促すと同時に、細胞周期を正に調節することにより、細胞が動き、分裂するという生存の為に必須の因子であることが示唆された。今後は、過剰発現系の構築、単球浸潤との関連、内皮特異的KOマウスのin vivo解析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度(初年度)において、我々は動脈硬化発症における重要なプレーヤーである血管内皮細胞においてTRPV2というメカノセンサーを抑制すると細胞の動きや仮足の形成が阻害されるという基礎データを得ることができた。本年度はその分子機序を明らかにすることを主眼として研究を進め、仮足形成の場である細胞膜と仮足形成に必要なアクチン細胞骨格とを繋ぐ働きをするERMや、アクチンの重合・脱重合を制御するArp2、また、細胞と基質との接着・脱着を制御する焦点接着斑を構成するtalin, vinculinが重要なファクターであることを明らかにすることができた。また、TRPV2のもう一つの機能的側面として細胞の動きだけでなく、細胞周期を制御している可能性を示唆するデータを得ることができた。一方、TRPV2の過剰発現系については研究の進捗が少し遅れており、次年度(最終年度)に向けて集中して研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、現時点ではおおむね順調に研究が進展しているので、今後も当初の計画に沿って研究を進めていく予定である。具体的には、1) TRPV2過剰発現系の構築・解析、2) 単球浸潤との関連、3) 内皮細胞特異的TRPV2-KOマウスの表現型解析を行う。1)については、実験系はほぼ完成しているので、過剰発現による細胞の移動速度の変化、GFP付加TRPV2による生細胞イメージング(仮足形成部位や分裂時の分布動態)といった解析を進めていく。2)については、TRPV2のノックダウン系及び過剰発現系のおける単球の浸潤動態の変化を解析する。この実験系は我々が長年培ってきたものであり、問題なく進めることができる。3)については、マウス個体としての表現型解析、及び単離血管組織、単離血管内皮細胞による解析を進め、これまでの培養系で蓄積したデータと併せてTRPV2の生理機能を多角的なアプローチで明らかにし、動脈硬化発症における役割、更に将来的には疾病の治療・予防戦略を構築するための有効な基礎データを得たいと考えている。
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