研究実績の概要 |
動脈硬化の発症初期には血液中の単球が血管内皮細胞に接着し、その間隙から浸潤して内皮下組織に出る。この過程はその後の病態進行において重要な意味を持つ為、世界中で広く研究が行われている。また、この浸潤現象は、単球及び内皮細胞間隙にある接着分子による“化学的”な制御として解釈されることが多いが、実際には両細胞の接触部における微細な膜の変形・伸展等の“物理的・機械的”な解釈が必須である。我々は既報の機械刺激感受性分子(メカノセンサー)のうち、Ca2+の流入経路としても機能するTRPV2に着目し、浸潤現象における役割を検討した。初年度(H25年度)はヒト培養内皮細胞を用いてTRPV2のノックダウンにより内皮細胞は仮足形成能が阻害されて形態が円形に近くなり、結果として細胞の動きが阻害されること、逆に、活発に動く細胞ではTRPV2発現が上昇していることを明らかにした。次年度(H26年度)は、その分子機構として細胞骨格制御因子Arp2, ERM、及び焦点接着班の制御因子talin, vinculinの関与を明らかにした。最終年度(H27年度)はTRPV2の過剰発現系を構築し、実際に生きた内皮細胞でTRPV2が伸張する仮足形成部に局在することを確認した。更に、TRPV2が細胞の動きだけでなく細胞周期・増殖を正に調節することを明らかにした。以上より、TRPV2は外部からの物理刺激に応答し、Ca2+の流入を介してアクチン細胞骨格の制御による仮足形成(Arp2, ERM)、及びそれによって生ずる細胞の動きを促すと同時に、細胞周期を正に調節することにより、細胞が動き、分裂するという生存の為に必須の因子であることが示唆された。今後は、動脈硬化発症における関与を明らかにする為、単球との相互作用、浸潤におけるTRPV2の役割について、培養系及びTRPV2ノックアウトマウスを用いた個体レベルにて解析を進める予定である。
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