研究課題/領域番号 |
25350548
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
仙葉 愼吾 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (40466496)
|
研究分担者 |
安田 和則 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20166507)
津田 真寿美 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30431307)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 再生医工学材料 / 生体材料 / ダブルネットワークゲル / ハイドロゲル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、PAMPSゲルが誘導する細胞分化現象において共通に変動するタンパク質や遺伝子を網羅的に解析し、分子レベルで分化誘導の機序を明らかにすることである。前年度の解析で同定したキナーゼXは様々な遺伝子の発現調節に関与していることが報告されている。そこで、PAMPSゲル上での培養によって引き起こされる遺伝子発現の変動をtranscriptome解析によって網羅的に調べた。その結果、細胞外基質に関連する遺伝子群の発現が特異的に亢進していることが明らかとなった。次に、ATDC5細胞が分泌する細胞外基質を蓄積させたconditioned-PAMPSゲルを作成し、このゲル上で培養したATDC5細胞の軟骨分化の度合いを検討した。その結果、PAMPSゲル上で培養したものと比べてconditioned-PAMPSゲル上で培養したものでは早期に軟骨分化が誘導されることが明らかとなった。このことから、PAMPSゲルで誘導される軟骨分化の分子メカニズムは過去の報告のあるインシュリンによるものとは全く違うものであることが推察された。また、PAMPSゲルに結合する細胞接着分子を同定するために、PAMPSゲルを用いたpull-down assayを行った。ビオチン標識したATDC5細胞の膜タンパク質とPAMPSゲルと混合し、結合したタンパク質を2次元電気泳動で展開後PVDF膜に転写し、HRP標識したアビジンでPAMPS結合タンパク質を検出した。検出された結合タンパク質の等電点と分子量をもとにデータベース検索を行ったところ、結合タンパク質の一つとしてインテグリンが同定された。以上の結果から、PAMPSゲルとの接着刺激はインテグリンを介して細胞内に伝達されることが推察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度では、PAMPSゲルによって軟骨分化が促進されることが既に明らかとなっているATDC5細胞を用いてシグナル分子の同定と軟骨分化誘導機構の解明を試みた。当該年度におけるポイントは次の2点である。(1)PAMPSゲルに蓄積した細胞外基質がATDC5細胞の軟骨分化を促進することを示唆する結果を得た。これまでの過去の研究において、ゲル自身が持つ柔らかさや荷電状態が細胞分化に影響を及ぼしていることが多く報告されている。しかし、ゲルが細胞外基質を初めとする様々なタンパク質を蓄積する「リザーバー」として機能し、蓄積されたタンパク質が細胞に更なる刺激を与え分化を誘導することを示した報告はこれまでになく、生体材料としての新たなゲルの機能の可能性を示唆するものである。(2)PAMPSゲルに直接結合する細胞接着分子としてインテグリンを同定した。インテグリンは細胞外基質と結合しその刺激を細胞内に伝えるタンパク質であり、また様々な細胞に広く発現していることから、ゲルからの刺激を伝える共通の分子である可能性が極めて高い。また、インテグリンはα鎖とβ鎖の組み合わせによって多様な分子種を構成しており、そのうちのある特定の分子種がPAMPSゲルと結合し細胞内にその刺激を伝えることで特異な細胞分化を誘導していることが考えられる。これらの発見はPAMPSゲルによる細胞分化誘導メカニズムの解明や生体材料としての新たなゲルの機能を示すものであり、本研究計画はおおむね順調に進展しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
現在のところ、どのような細胞外基質がPAMPSゲルに蓄積しているか、そのうちのどれが軟骨分化を促進している因子なのか、またインテグリンからキナーゼXを介して細胞外基質関連遺伝子の発現を制御するシグナル経路の詳細など解明すべき点がまだ残されている。そこで平成27年度では以下の項目について検討を行う。(1)PAMPSゲル中に蓄積されたタンパク質のproteome解析:conditioned-PAMPSゲルと、陰性対照として培養液に浸したPAMPSゲルからそれぞれタンパク質を抽出する。そして2次元電気泳動によってconditioned-PAMPSゲルにだけ含まれているタンパク質を見いだし、質量分析計を用いてタンパク質の同定を行う。(2)knockdown ATDC5細胞を用いた解析:上記(1)で同定されたタンパク質をknockdownしたATDC5細胞を樹立し、PAMPSゲル上で培養したときの軟骨分化の程度をreal-time PCRによって解析する。これによってPAMPSゲルに蓄積されたどの細胞外基質関連タンパク質が軟骨分化を促進しているのかを明らかにする。同時に、インテグリンをknockdownしたATDC5細胞も樹立し、キナーゼXのリン酸化状態や軟骨分化への影響を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年3月に購入した物品については平成27年4月に支払いが行われたため、未使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年3月に購入した物品については平成27年4月に支払いが行われた。
|