研究課題/領域番号 |
25350550
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
鳴海 敦 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (60443975)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糖 / グリコポリマー / リビングラジカル重合 / RAFT重合 / 末端修飾ポリマー / ブロックコポリマー / 高分子ミセル / 相分離 |
研究概要 |
平成25年度は、糖鎖RAFT試薬の合成、種々のビニルモノマーの有機溶媒中でのRAFT重合を実施した。はじめに、糖鎖RAFT試薬の合成に関する実績について述べる。糖鎖アミンおよび活性エステル含有RAFT試薬をそれぞれ合成した。具体的には、出発原料であるオリゴ糖への5-アジドペンチルアミンのN-グリコシル化反応、無水酢酸によるN-アセチル化処理、およびパラジウム炭素によるアジド基への水素添加反応により糖鎖アミンを得た。市販のRAFT試薬とN-ヒドロキシスクシンイミドとの縮合反応により活性エステル含有RAFT試薬を得た。糖鎖アミンおよび活性エステル含有RAFT試薬を混合し、糖鎖RAFT試薬を得た。NMR、IR、MS、およびHPLC測定により、高純度な糖鎖RAFT試薬の合成を確認した。動的光散乱 (DLS) 測定、および小角X線散乱(SAXS)測定の結果、得られた糖鎖RAFT試薬は水中において、コア部に連鎖移動部位を有する球状ミセルを形成していることが示唆された。続いて、糖鎖RAFT試薬を用いたRAFTミニエマルジョン重合の先駆的研究として、有機溶媒中におけるスチレンのRAFT重合を行ったので、その研究実績の一例に関して述べる。スチレン、糖鎖RAFT試薬、およびアゾビスイソブチロニトリル (AIBN: 開始剤) を[スチレン]/[糖鎖RAFT試薬]/[AIBN] = 50/1/0.5のモル比で加え、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。凍結脱気を複数回行い封管した後、65℃において24時間重合反応を行った。分取SEC(THF)により未反応のスチレンおよびAIBNを除去した後、NMR、SEC (THF)測定を行った。その結果、本重合反応は、明確な一次構造を有し、分子量分散度が比較的狭い糖鎖末端修飾ポリマーを与えることを明らかとした。得られた糖鎖末端修飾ポリマー(固体サンプル)は、SAXS測定より、体心立方格子型の球状ミクロ相分離構造を形成することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究遂行のための最重要化合物である糖鎖RAFT試薬を新たに合成した。この糖鎖RAFT試薬は、水中で自己組織化能を示した。すなわち、水系不均一精密重合法への応用展開に好ましい分子構造であることが示された。また、有機溶媒中におけるスチレンのRAFT重合の結果より、この糖鎖RAFT試薬は十分な重合制御能力を有していることが示された。また、モノマーとしてスチレンのみではなく、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、およびN,N-ジエチルアクリルアミドを使用しRAFT重合を行った結果、同様に一次構造が制御された糖鎖末端修飾ポリマーを得ることができた。RAFT重合法により得られた糖鎖末端修飾ポリマーのDLS測定の結果、ポリスチレンの良溶媒であるクロロホルム中において、高分子逆ミセル状の会合体形成が認められた。またSAXS測定の結果、数平均重合度が約50のポリマーサンプル(糖鎖の体積分率: 0.13 ~ 0.15)において、体心立方格子型の球状ミクロ相分離構造に起因する特徴的な散乱ピークが確認された。すなわち、ポリマーの一次構造と形成されるミクロ相分離構造の形態に関する知見を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き、糖鎖RAFT試薬を用いた有機溶媒中における種々のビニルモノマーのRAFT重合を行い、ポリマーの一次構造と形成されるミクロ相分離構造の形態に関する知見を増やす。また同時に、糖鎖RAFT試薬を界面活性剤、および連鎖移動剤として用いた、スチレンの水中におけるソープフリーRAFTミニエマルジョン重合の検討実験も行う。以下にその具体的な方法を示す。スチレン、糖鎖RAFT試薬、およびアゾビスイソブチロニトリル (AIBN: 開始剤) を[スチレン]/[糖鎖RAFT試薬]/[AIBN] = 50/1/0.5のモル比で水に加え乳化させる。さらにヘキサデカン (ハイドロホーブ) を加え、30分間超音波処理を行い、ミニエマルション重合水溶液を調製する。得られたミニエマルション重合水溶液を凍結脱気した後、封管し、70℃において6時間重合反応を行う。反応混合物を遠心分離、および凍結乾燥により精製し、目的物である糖鎖末端修飾ポリマーを高効率で得る。SEC (THF) 測定およびNMR測定により糖鎖末端修飾ポリマーの分子量、分子量分散度、糖鎖末端修飾率を求める。さらに、平成25年度に精密合成した糖鎖末端修飾ポリマー溶液(クロロホルム、THFを予定)をスピンコーターによりシリコン基板上にキャストし、フィルムを作成する。フィルム表面の形態観察を原子間力顕微鏡 (AFM) 測定により行い、高分子逆ミセルの濃度やキャストフィルムの作製条件について明らかにする。また、キャスト後のアニーリング処理による表面形態変化についても調べる。表面の親水性を数値化するために、動的接触角測定装置による水の接触角測定を行う。最終的に、固体サンプルのSAXS測定の結果と比較し、相関を見る。
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