これまでに我々はin vivoでも有効な非ウイルス性ベクターの開発を目指して、遺伝子導入機構の解析を行ってきた。これまでの解析により、遺伝子発現の細胞間差が著しく、解決すべき大きな課題であることを明らかにしている。前年度までに、イメージベースサイトメーターを用いて複数のエンドサイトーシス経路の細胞間差を同時に解析する系を立ち上げた。細胞周期の同調培養を行い、M期への同調ではエンドサイトーシス活性に大きな変化は見られなかったが、S期への同調ではトランスフェリンの細胞集積が増大する傾向が見られていた。本年度は、新たにより感度の高いセルソーターを入手し、マルチカラー解析ができるようになった。トランスフェリン、コレラトキシンBの細胞集積と細胞周期の関連性を同時に解析したところ、個々の細胞によって、活発なエンドサイトーシス経路が異なるというこれまでの解析結果を支持しつつ、新たに、細胞周期がG1期からM期へと進むにつれてそれまでエンドサイトーシスが活発ではなかった細胞がトランスフェリンを良く取り込むようになることを明らかにできた。非ウイルス性ベクターの種類により、エンドサイトーシス経路が異なることが知られており、本研究で得られた知見は、非ウイルス性ベクターの細胞取り込みにおける細胞間差を理解する一助になるものと考える。 さらに、非ウイルス性ベクターであるリポプレックスを用いて、細胞集積と遺伝子発現の細胞間差に関する解析を行った。結果、遺伝子発現に至るためには細胞集積量に閾値が存在する一方、閾値以上では細胞集積量と遺伝子発現に相関がないこと、イオン存在下、製剤の分散状態が悪く、遺伝子発現の細胞間差の一因と考えられること、酸化ストレスの低い細胞において、遺伝子発現に至る細胞の割合が多いことを明らかにした。本研究の成果を生かして、今後細胞間差の少ないベクター開発を行いたい。
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