研究課題
基盤研究(C)
周辺組織への細胞毒性を最低限に抑え、長期に渡り微弱な抗菌効果を長期間に渡って発現する新規材料を創出することを目的とする。具体的には、感染防止の技術ポイントである①皮膚刺入部および②血管内留置部における細菌付着・増殖を抑制するナノ材料の創出を目指す。まずHApナノ粒子に抗菌活性を有する銀イオンをドープする。当該ナノ粒子より徐々に銀イオンを放出することで、急性細胞毒性の大きい銀化合物(例えば、硝酸銀や抗菌カテーテルに用いられるスルファジアジン銀など)に比較して、微弱な抗菌性を長期間に渡り維持させることにより、細胞毒性を制御した抗菌マテリアルが創出可能となる。平成25年度の課題は、①分散性に優れる銀イオンドープ・ハイドロキシアパタイト(Ag-HAp)ナノ粒子の合成、および②病原性微生物の接着性および増殖性の予備検討である。まず、分散性Ag-HApの合成を試みた。Ca10-xAgx(PO4)(OH)2のx=0.2となるようにAgNO3、Ca(NO3)2・4H2Oおよび(NH4)2HPO4を100˚Cにて混合・攪拌させた。さらに融着防止剤ありなしの条件で700˚C、2時間仮焼することにより凝集性およびバンズ軟性Ag-HApを得た。融着防止剤にポリアクリル酸を添加した場合には金属銀の析出が認められたが、カルシウム塩のみの場合に、結晶構造中にAgイオンがドープされていることを認めた。また分散性は融着防止剤ありにおいて向上がみられた。②病原性微生物の予備検討について、重大な院内感染の原因となる大腸菌や黄色ブドウ球菌、綠膿菌、アシネトバクターなどの病原性細菌を用いて、オリジナルHApナノ粒子(銀イオンをドープしていないナノ粒子)および高分子複合材料の抗菌性を検証する方法を確立した。
2: おおむね順調に進展している
当該プロジェクトの最重要課題は、如何にしてCaイオンより大きいイオン半径を有するAgをHAp結晶構造中にドープするかであった。単純にHApへ銀イオンをドープし仮焼した場合、銀イオン半径がCaイオン半径より大きいため、銀イオンが結晶格子に収まらず結晶性増加により銀ナノ粒子が析出することが分かっている。この現象を回避する方法として仮焼温度および時間の制御が効果的であることを見出していたが、分散性の向上を図るために融着防止剤を添加したところ、金属Agが結晶外に析出する現象が認められた。この現象を防ぐため検討を重ねたところ、融着防止剤の組成を調整することでこの問題を克服できることが分かった。それによって、AgがHAp結晶中に留まったまま、結晶化・分散化する条件を見出すことができた。また、高分子複合材料の抗菌性を検証する方法の確立として、カテーテル感染起炎菌(表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ)および院内感染起炎菌(綠膿菌、アシネトバクター)を用いて、血清添加細胞培養培地での培養を顕微鏡下でモニターする予備的実験を実施した。概ね、菌の増殖を定量化する方法を確立した。さらに、高分子複合材料と動物細胞の接着に対して、上記の感染起炎菌の与える影響をモニタするため、マウス繊維芽細胞(McCoy)と正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養を行い、同様に顕微鏡下でモニターする予備的実験を実施した。
上述した金属AgがHAp結晶外に析出することを抑制する反応条件を見出せたことにより、当該プロジェクトの最重要課題を克服することができた。第2年目は研究計画に従って、実験を遂行することになる。具体的には、Ag-HApナノ粒子の合成および銀イオン徐放挙動の評価、高分子基材へのAg-HAPナノ粒子の表面被覆制御、および病原性微生物の抗菌制御である。
傾斜試料台(EDX用22度)を発注したが、メーカーに当該商品の在庫が無く、納品までに2ヶ月を要したため。上記の理由により、傾斜試料台(EDX用22度)代金59,850円を次年度(平成26年度)に繰り越すこととした。
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