研究課題/領域番号 |
25350566
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中島 清一 大阪大学, 臨床医工学融合研究教育センター, 特任教授(常勤) (30432537)
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研究分担者 |
山崎 誠 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50444518)
高橋 剛 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50452389)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 内視鏡外科学 / 消化器内視鏡学 / 上部消化管学 / 実験外科学 / 胃十二指腸外科学 |
研究概要 |
【目的と初年度計画】あらかじめ設定された圧まで消化管にガスを自動で送り込む新しいコンセプトの内視鏡「定圧自動送気内視鏡(Steady Pressure Automatically Controlled Endoscopy:SPACE)」には、送気操作の自動化による内視鏡視野の安定性向上という利点に加え、万一の穿孔時にも胃内から腹腔内への過剰送気を回避できるという潜在的な利点が期待される。本研究の目的は、胃穿孔時のSPACEの安全性と有用性を現行の手動送気による内視鏡との比較を通じて明らかにすることであるが、研究初年度は、まず胃穿孔時における胃・腹腔内の圧挙動、内視鏡視野の安定性の変化ならびに呼吸循環動態への影響を、手動送気、SPACEそれぞれで解析し、次年度以降の研究に必要なベースライン・データを集積することであった。 【方法】雌ブタの胃前壁にφ20mm大の穿孔部を作成(n=5)。胃内、腹腔内に圧測定用のラインを留置し、それぞれをデジタル内圧計に接続した。オーバーチューブの口側に接続した逆流防止弁の側管から外科用送気装置を用いて設定圧8mmHgで10分間SPACEを施行し、その間の胃内、腹腔内圧を連続測定し、循環動態の変化とともに評価した。対照は従来通りの手動送気群とした。 【結果】穿孔時の循環動態は手動送気下、SPACE下共に変化は認めなかった。SPACEでは胃内圧、腹腔内圧共に設定圧(8mmHg)以下で推移した。一方、手動送気では送気開始後2分間は胃内圧、腹腔内圧共に設定圧以下にとどまっていたが、3分後より腹腔内圧が上昇しはじめ、7分後には49.87mmHgに達した。胃内圧も5分後より上昇を始め、9分後には38.21mmHgに達した。 【まとめ】ブタ胃穿孔モデルにおいては、従来の手動送気では胃内、腹腔内ともに過剰な圧上昇を来したのに対し、SPACEでは過剰な圧上昇を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は、まず1) 安定した大型動物(ブタ)の胃穿孔モデルを確立し、ついで手動送気およびSPACEそれぞれの場合で、2) 胃穿孔時における胃内・腹腔内の圧データを取得し、さらに3) 送気中の内視鏡視野の安定性、呼吸循環動態への影響を検討すること、を目的としていた。 1) ブタ穿孔モデルの確立については、パイロット実験(n=3)を通じて穿孔作成部位を最適化し、穿孔部位から再現性をもって送気ガスの漏出が認められるレベルを達成できた。2) 胃穿孔時における胃内・腹腔内の圧データは、穿孔部位の標準化が進むにつれて次第に再現性のあるデータの取得が可能となり、最終的には当初の予測に近いガス漏出パターンを裏づける圧データを蓄積することができた。当初計画において目標とした動物個体数 n=10 には届かなかったが、データに大きなバラツキを認めず、また次年度以降の研究遂行に十分なベースライン・データを得ることができた。3) モデル作成に際しては穿孔部のサイズを20mmと比較的大きくとったにもかかわらず、ブタの胃壁が非常に厚かったため穿孔部をチェックバルブ用に閉鎖してしまいダイナミックなガスの漏出をきたすことはなかった。従って、送気中の内視鏡視野の安定性について詳細な検討を行える系ではなかったと言えるが、少なくともこのスケールのガス漏出が呼吸循環動態へ大きな影響を及ぼさないことを確認することはできた。 以上の結果を総合的に評価すると、次年度以降の実践的な実験に必要となるベースライン・データはおおむね取得できたと考えられ、研究は「おおむね順調に進展している」。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度に得られたベースライン・データをもとに、当初計画通り「より実臨床に近い状況を想定した」動物実験を行う予定である。すなわち、初年度は胃穿孔部の閉鎖をまったく試みることなく単に10分間の内視鏡観察を行ったが、次年度では内視鏡下に閉鎖用クリップを用いて穿孔部の閉鎖を積極的に試み、その間の胃・腹腔の圧動態、視野の安定性、呼吸循環動態への影響を検証する予定である。 実臨床での経験では、穿孔部の閉鎖が進むにつれてガス漏出の程度はダイナミックに変化し、胃・腹腔内の圧動態にも影響が及ぶと予想される。特に手動送気モデルでは、穿孔部を閉鎖しようと穿孔部近傍で送気と吸引を頻回に繰り返す結果、術者の想定以上に穿孔部位を通して胃内から腹腔内へガスが漏出し、異常な腹腔内圧を呈する状況が予想される。現時点では大幅な研究計画の変更は予定していないが、ガス漏出のスケールが大きすぎる場合、穿孔部のサイズを小さくする等の軽微な変更が必要となる可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なった。 研究計画に変更はなく、今年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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