研究課題/領域番号 |
25350574
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
壁井 信之 芝浦工業大学, システム工学部, 教授 (50096583)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脊髄 / 熱伝導率 / 数値解析 / 温度推定 / 局所冷却 / 生体組織 / カテーテル |
研究概要 |
①冷却カテーテルの熱伝導に関する数値解析モデルAの作成を試みた。しかしモデル化に必要なカテーテルに使用しているポリウレタンの熱伝導率を調べようとしたが、試料として適切な形状や表面粗さがなかなか得られず、26年度の作業に持ち越された。このため実際の値を用いたカテーテルの数値解析モデルを作ることはできなかったが、とりあえず一般的な工業用ポリウレタンの熱伝導率の数値を用いてモデル化を行った。また②カテーテルが硬膜外腔に達していない部分の周囲環境への熱の移動を求める数値解析モデルB1 と、硬膜外腔への熱の移動を求める数値解析モデルB2をそれぞれ作成した。さらにこれらを統合した数値解析モデルBを作成した。次に③実際にカテーテルを硬膜外腔に見立てた恒温槽に入れ、その恒温槽の温度を、カテーテルに流入する冷却液の入り口温度と出口温度および流量から、数値解析モデルAおよびBを用いて推定する実験を行った。その結果、相関係数0.98と高い相関性が得られ、硬膜外腔温度は十分な正確さで推定できることが分かった。 ④硬膜外腔から脊髄腹側部までの熱の移動に関する数値解析モデルCを作るには、脊髄の熱伝導率を知る必要がある。計測の際には生体組織の変性を防ぐために、数値解析モデルを用いて熱伝導率の値を求めることにした。まず同一断面内で直交する二か所にサーミスタを取り付け温度上昇の経時的変化を測定する。二か所にセンサーを取り付けたのは、接触熱抵抗と熱伝導率の両方の値を得るために、方程式が二つ必要になるためである。データロガに取り込んだ2か所の温度の経時的変化と、数値解析モデルの経時的温度変化が最も一致する熱伝導率と接触熱抵抗の値を捜しだし、求める脊髄の熱伝導率として推定する方式を採った。この方法により求めた髄膜を含む脊髄の径方向の熱伝導率は0.5~0.53[W/mK]となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①冷却カテーテルの熱伝導に関する数値解析モデルAの作成:達成度=やや遅れている。理由:数値モデルの要となるカテーテル材料のポリウレタンの熱伝導率を試料の製作に手間取り、測定できなかった。 ②カテーテルが硬膜外腔に達していない部分の数値解析モデルB1、またカテーテルから硬膜外空への熱の移動を求める数値解析モデルB2をそれぞれ作する。達成度=順調に進んでいる:さらにこれらを統合した数値解析モデルBを作成した。③脊髄シミュレータの製作:やや遅れている:理由:脊髄の血管分布が複雑で、どの部分まで模擬するのが適切か試行錯誤しているため。④26年度の計画になっている数値解析モデルA,Bを用いた硬膜外腔温度の推定:達成度=当初計画以上に進展している。理由:一般的なポリウレタンの熱伝導率を仮の値として用いた数値解析モデルAを用いて温度推定実験を行った結果、恒温槽に入れたカテーテル周囲温度の実験値と、数値解析による推定温度との間に非常に高い相関があることが示され、温度推定できる可能性が高いことが確認された。⑤生体の熱伝導率の測定:達成度=順調に進んでいる。理由:数値解析モデルCの作成上重要な要素である脊髄熱伝導率は、従来の文献では正確に把握できなかったため、新たな手法を用いて測定した。
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今後の研究の推進方策 |
26年度:①数値解析モデルの評価をするための脊髄シミュレータを完成させる。その際、血管系の配置などは以前に行った動物実験結果を基に検討していく。②数値解析モデルAを完成させるため、実際に使用しているポリウレタンの熱伝導率を測定し、その値を数値解析モデルAに取り入れる。③脊髄シミュレータに冷却カテーテルを挿入し、冷却中の硬膜外腔温度の推定実験を行い、数値解析モデルBの評価を行う。不十分と評価された場合は、再度モデルを作り直す。④硬膜外腔から脊髄腹側までの熱移動を求める数値解析モデルCを完成させる。⑤さらに数値解析モデルA,B,Cを統合し、脊髄冷却システムの統合モデルを構築する。動物実験の代替えとして製作した脊髄シミュレータを用いて、硬膜外腔温度、脊髄背側部、脊髄腹側部温度などを測定し、統合モデルを用いて推定した各部の温度と比較し、統合モデルによる推定値が、実用上問題のないレベル(推定温度の誤差が±1℃)になるまで、数値解析モデルを修正し、動物用モデルとして完成させる。⑥この動物用モデルの解剖学的形状・寸法のみヒトのそれに置き換えヒト統合モデルを作成する。その際、人間の値は、体格別に5グループ程度に分類し、それぞれの体型に併せて5つのモデルを作成する。 27年度:①脊髄局所冷却システムのハードウェアを完成させる。②色々な条件で冷却カテーテル内を流れる冷却液の流量と、カテーテル入口と出口における温度を、完成した数値解析用ヒト統合モデルに入力することで、各種の条件下での硬膜外腔温度および脊髄背側部温度、脊髄腹側部温度などの推定値を求める。③これらのデータを体格別に分類したグループごとに、関数化する。④得られた関数を用い、精髄温度制御用アルゴリズムを構築し、開発したハードウェアを用いて脊髄温度の制御を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度中に、脊髄冷却システムのハードウェア部分を製作する予定だったが、熱交換器を製作するにとどまった。またポンプ部分は駆動用のアクチュエータを購入したにとどまり、ポンプ本体部分は現在設計中で製作に至っていない。また装置全体の各機器のレイアウトの構想を熱流体解析により検討中で、製作には至っていない。 数値解析ソフト使用料 540,000円 脊髄冷却システムのハードウェア部分の製作費 648,420円
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