[目的]ワクチンなどの生物学的製剤は一般の医薬品とは異なり、「物理化学的手法だけではその安全性・有効性を評価できない(WHO)」ため、品質管理においては実験動物が用いられることが多い。特に破傷風トキソイドワクチンの有効性を調べる力価試験は、マウスにワクチンを投与(免疫)しておいてから人為的に毒素を投与(毒素攻撃)して耐えるかどうかを指標にした、動物に苦痛を強いる試験法のため、動物に苦痛を与えない防御能試験法開発が動物福祉の観点から望まれている。昨年度までに、破傷風毒素のエンドペプチダーゼ活性の阻害および破傷風毒素のレセプター結合の阻害を指標とした防御能のin vitro測定系の開発について検討してきたが、本年度はよりin vivoに近い、発育鶏卵の正常発生に対する毒素の作用を解析し、指標として用いることができるかどうか検討した。 [方法]100-10000マウスLD50の破傷風毒素を0.2mlの0.2%ゼラチン加PBSに溶解し、10日齢の発育鶏卵の漿尿膜腔内に、26Gの注射針を用いて無菌的に投与した(n=3)。投与後、卵殻の穴を封じて転卵機能付き孵卵器で37.5℃、湿度70%で孵卵した。孵化の兆候が判別できる段階で、低温処理により卵の発育を中止した。 [結果と考察]用いたいずれの濃度の破傷風毒素によっても、鶏卵の正常発育に対する影響を認めることができず、発育鶏卵は破傷風毒素の作用およびその中和による阻害を指標としたワクチン力価試験系としては適していないことが明らかになった。ニワトリはマウスに比べて破傷風毒素に対する感受性が低いとの報告があるが、10000マウスLD50の毒素が胚の正常発育に影響しないという今回の結果は予想外であった。胚に直接毒素を注入することでより高い感受性を得ることができた可能性があるが、技術的に難しくルーチンには不向きのため、本研究の対象としなかった。
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