研究課題/領域番号 |
25350589
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
遠藤 佳子 東北大学, 大学病院, 言語聴覚士 (60569466)
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研究分担者 |
橋本 竜作 北海道医療大学, 心理科学部言語聴覚療法学科, 准教授 (00411372)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 失語症 / 語彙化錯読 / 仮名無意味綴り / トライアングルモデル / 二重経路従属モデル |
研究概要 |
本研究の目的は、1.失語症例における語彙化錯読の発現機序と責任病巣、合併する言.語症状を特定する、2.語彙化錯読を呈する症例に対する有効な訓練教材や訓練手技を検討する、3.その訓練手技の有効性を明らかにする、の3点である。平成25年度の計画は、様々な病巣の多数の失語症例に対し、有意味語と無意味綴りの音読課題、及びWAB失語症検査を実施し、語彙化錯読の特徴、合併する言語症状および病巣を評価することであった。そのために、症例に対して用いる課題を作成し、実施した。課題に用いた有意味語は、計画通り、語の使用頻度・心象性・表記妥当性等の属性を統一した仮名4文字の単語とした。無意味綴りはその選定した有意味語を構成する文字を入れ替えて作成し、さらに文字を入れ替えても有意味語にならない完全な無意味綴りも作成した。また、構音障害や失構音、音韻性錯語等により仮名の音読が困難である症例でも無意味綴りをどのように認識しているかを検討できるよう、意味理解課題も作成し、施行した。意味理解課題では、音読課題に用いた有意味語、無意味綴りを提示し、それと対応する絵を選択肢から選ぶよう教示した。無意味綴りが提示されたときには「?」を指示するように教示した。同じ課題を脳損傷の既往のない健常成人にも同じ課題を施行した。 現在、15名の失語症例と10名の健常成人に上記課題を施行することができている。健常成人の結果から、通常は仮名の有意味単語無意味綴りも音読が可能である事がわかった。失語症例への結果からは、音読に失敗する症例は意味理解も失敗する傾向にあることがわかった。 計画では、病巣検討として画像解析ソフトを用いて標準的化された脳での病巣の重ね描きを行う予定であったが、対象症例の症例数が少なく、病巣の重ね書きは行えなかった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、15名の失語症例と10名の健常成人に上記課題を施行することができている。失語症例の反応の大方の傾向は掴むことができたが、15名では脳のあらゆる部分の損傷例を網羅したとは言えない。明らかな失語症を生じさせる左中大脳動脈領域損傷の症例には多く施行する事ができているが、軽度の失語症を生じさせる前大脳動脈損傷例、後大脳動脈損傷例への施行が少ない。そのため、語彙化錯読が失語症に伴って生じるものであるのか、失語症とは乖離するものであるのかは明らかではない。また、失語症例の症例数が少ないため、画像ソフトを用いて病巣を重ね描きし語彙化錯読の責任病変部位を同定するにはまだ至っていない。同時に、健常成人10名に同じ課題を施行できているが、年齢が50歳代から70歳代とまちまちであり、失語症例と平均年齢は正確には統制されていない。 申請者は主に自身の勤務する施設の症例に同意を得て上記課題を施行しているが、この施設のみでは必ずしも検討に十分な局所病変例に課題を実施できない可能性がある。特定機能病院である本施設では、脳梗塞や脳出血などの疾患の治療を長期には行っていない場合が多い。また局所病変例がいても、急性期の治療中であることが多く、上記の課題を十分に施行できない場合が多い。検討に十分な数の症例を確保することが本研究の実施には重要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の実施のために重要なことは、検討に十分な数の症例の確保であると考える。そのためには、本研究の趣旨に賛同する他施設に協力を要請し、局所病変を有する症例を紹介していただく必要がある。他施設に協力を要請することが急務である。 対象症例は、大脳左半球損傷により失語症を呈した症例のみならず、同じく左半球損傷後にごく軽度の失語症を呈した症例や、失読失書のような読み書きにのみ障害を呈している症例も含めることが必要である。語彙化錯読が、失語症という言語の障害に関与して出現する症状であるのか、言語の障害には関係なく読み書き障害の一症状として出現するのかを明らかにしなくてはならないからである。語彙化錯読が言語の障害に関与して出現するものであれば、これの訓練には読み書きの練習のみならず、音韻訓練や意味訓練などの言語課題を用いることが必要となる。また、左半球のみならず、右半球損傷の症例にも課題を実施することが必要である。右大脳半球損傷後には、失語症などの言語の障害が出現することはまれであり、視空間認知や注意などの障害が顕著に出現することが知られている。語彙化錯読は、非単語を視覚的に類似した単語へと読み誤る誤りである。注意に障害がある症例においても、単語の音読課題で視覚的に類似した誤りが出現することが考えられる。すなわち、右半球損傷例も、非単語を単語に読み誤る語彙化錯読が出現する可能性がある。しかしその場合は左半球損傷例とは質的に異なる誤りをするものと考えられるため、鑑別が必要である。そのために、左右両半球の局所病変例を対象とし課題を遂行する必要がある。 多数の症例に語彙化錯読課題を行う中で、病巣と誤りとの間に一定の傾向を見いだすことができるであろう。それぞれの誤反応分析を行い、それぞれのタイプの語彙化錯読の訓練教材を検討することが必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、課題を作成し申請者が勤務する施設の同意を得て症例に課題を行った。そのため、課題作成費用は必要であったが、症例に課題を施行する場面では費用はほとんどかからなかった。また、症例数が少ないため、症例の課題の得点や傾向、また病巣分析をするための統計処理を行えなかった。これらの事項を次年度以降に行うため、次年度に助成金を使用する必要が生じた。 次年度は他施設に協力を依頼し、申請者がその施設を訪れて症例に課題を行う必要がある。その旅費として助成金を必要とする。協力施設やその施設の症例には、研究の趣旨を説明した上で同意を得る必要がある。また謝礼も必要となる。集まった各症例の課題成績及び脳画像は統計処理を行うために統計ソフトを購入する必要がある。
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