本研究の目的は、1)語彙化錯読の発現機序と責任病巣、合併する言語症状を特定する、2)語彙化錯読を呈する症例に対する有効な訓練教材や訓練手技を検討する、3)その訓練手技の有効性を明らかにする、の3点である。 語彙化錯読課題として、仮名4文字からなる次の刺激を用いて対象被験者に音読及び意味理解を求めた。1)通常の仮名単語(ひまわり)、2)文字を入れ替えた無意味綴り(わひりま)、3)完全な非語(みになち)。意味理解課題では、単語であればそれに対応する絵カードを、無意味綴りであれば「?」を指さすよう求めた。語彙化錯読に関するこれまでの研究では仮名の無意味綴りの「音読の誤り」のみが検討されてきたが、本研究では、音読のみならず「意味理解」も語彙化されていることを検討するため、意味理解課題も合わせて行っていることが特徴的である。この課題の実施と同時に、症例のMRIにて病巣部位を評価した。 研究期間を通して、35名の左半球損傷性失語症例、5名の右半球損傷例(非失語症例)、11名の正常被験者に上記課題を実施することができた。課題の実施結果から、健常被験者は語彙化錯読が出現することははきわめてまれで、意味理解課題でも無意味綴りは無意味と認識することができていた。右半球損傷例では、時折語彙化錯読が見られるものの多くはなかった。一方、左半球損傷性失語症例では語彙化錯読が有意に多く見られた。 病巣分析の結果から、左下前頭回及び頭頂間溝に病巣のある失語症例では、それ以外の症例に比して有意に語彙化錯読が出現していた。 訓練手技として、語彙化錯読の見られる失語症例においても仮名一文字の音読は良好である場合が多く、仮名を一文字づつ操作する仮名チップの入れ替え訓練は語彙化錯読の訂正に有効な訓練であると思われた。
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