精神科作業療法では,亜急性期の対象者に,精神症状の軽減を目的にした作業活動を提供する.その活動は,繰り返しの動作があり,主に身体感覚を用い,新たな知識や技能を要せず,作業活動の進行度や結果までの手順が明確という特徴がある.しかし,神経科学的な側面から,このような作業活動の解明を試みた研究は少ない. 単純課題と創造的課題という2つの作業活動遂行時の酸化ヘモグロビン濃度([oxy-Hb])を測定し,課題間における前頭葉皮質の賦活の違いを,また,それぞれの主観的評価の差を調査した.さらに,各課題時の主観的評価と脳賦活との関係性を調べた. 課題間の[oxy-Hb]および主観的評価の差を,課題内の[oxy-Hb]と主観的評価の相関を調べた.創造的課題は単純課題と比べ,前頭葉皮質賦活の程度が大きかった.創造的課題における前頭葉皮質の賦活は,「(課題遂行時に)迷った」という主観的評価との間で正の相関が認められ,単純課題では負の相関が認められた.単純課題時[oxy-Hb]とVAS「迷った」の各間に負の相関が認められた.創造的課題時[oxy-Hb]とVAS「迷った」の各間に正の相関が認められた. 2つの課題間では脳活動の負荷の程度に違いがあり,より負担が大きい創造的課題は“迷った”という主観的評価と正の関連が認められた.有意差が認められた腹外側前頭前皮質はmaking decision (意思決定)と関連する. 2つの課題には,結果までの手順が明確であるか否かという点に違いがあった.亜急性期の対象者には本研究における単純課題に相当する作業活動が提供される.単純課題のような,繰り返しの動作があり,主に身体感覚を用い,新たな知識や技能を要せず,作業活動の進行度や結果までの手順が明確な作業活動の脳活動と主観的評価が関連したことは,精神科作業療法における客観的な作業活動の適用を検討する材料となるだろう.
|