研究の目的は、研究代表者らが考案してきたプログラムを基に、適切な刺激を用いた回想法を開発することにある。そして、地域在住高齢者を対象とした、本プログラムの精神的健康および認知機能の対する効果を検証し、介護予防のための回想法プログラムを構築することにある。 25年度から26年度の前半には、根拠をもって回想の手がかりを用いるため、つまり、回想を促すための適切な感覚刺激を用いたプログラム開発を目指して、高齢者が普段の生活の中で惹起される回想が生じる刺激や経験を検討し、匂い刺激に対する回想経験を有する者ほど、肯定的な回想を行う傾向にある知見を得た。その結果を基に、26年度の後半から27年度には、次のステップとして、嗅覚刺激に着目し、地域在住高齢者を対象に2群に分類した。肯定的な回想と関連のある匂い刺激の回想法と、回想の手がかりを用いない会話のみの回想法の比較により、抑うつと認知症予防に対する検討を行った。評価は、ベースラインと介入終了後の2時点とし、Geriatric Depression Scale-15(GDS-15)とFive Cognitive Testを用いた。分散分析を実施した結果、GDS-15に有意な交互作用が認められた。また、Five Cognitive Testでは、手がかり再生課題と文字位置照合課題の項目で、有意な時間による主効果が認められた。 以上のことから、匂い刺激を回想刺激として用いた回想法は、会話のみによって行う回想法よりも、地域在住高齢者の精神的健康維持に有用であること、そして、回想刺激の有無にかかわらず回想法は認知機能の向上をもたらす可能性が示唆された。今後は介護予防のための一つの手段として、実用的でより効果的なプログラムとなるための更なる検討が必要と思われる。
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