生体部分肝移植術(LDLT)後は,肝代謝合成機能が術前よりさらに低下するため,骨格筋においては廃用性萎縮による筋力低下が惹起され,ADLの低下から活動量がさらに低下する悪循環に陥る.そのため,電気刺激療法(EMS)を用いた筋収縮運動が,LDLT後の患者において筋力維持および増強に有用であるかを検討することである.LDLT手術予定の患者に対して,無作為にEMS群とコントロール群に大別し,EMS 群は刺激部位を大腿四頭筋とし週に5 回以上で施行した.コントロール群は,shamとして刺激部位を前頸骨筋とした.術前より身体機能として握力,下肢筋力,超音波検査による大腿四頭筋の筋厚,6分間歩行試験,ADL,QOLを評価し,術後も1ヵ月後,3ヵ月後に同様の評価により効果判定を行った. EMS群14例とコントロール群9例で比較検討を行い,対象者背景において術前および手術関連因子に関しては両群間で有意な差を認めなかった.筋力に関しては,全身の筋力を反映する握力も両群間で有意差はなく,大腿四頭筋筋力,超音波検査にて大腿四頭筋の筋厚も評価したが両群間で有意差を認めなかった.今回,両群間で有意差を認めなかった理由として,使用した機器がポータブル型のEMS治療器で十分な出力が得られていなかった可能性があること,肝移植術後患者は,移植肝の定着に時間を要し低蛋白状態となることが多く,浮腫を呈しやすい.そのため,目的とする筋まで有効な通電ができず,有効な筋収縮が得られていなかった可能性も示唆される.また,施行時間および頻度についても不十分だった可能性も否定できず,今後の検討課題である. 術後経過に関して両群共に有意差を認める項目はなかったが,両群共に術後1ヵ月後に筋力を含む身体運動機能およびADLは低下し,3ヵ月後に回復する経過を辿る回復過程を呈した.
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