研究課題/領域番号 |
25350609
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 青森県立保健大学 |
研究代表者 |
尾崎 勇 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (90241463)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳磁場計測 / 高周波信号 / 前頭前皮質 / 前帯状回 / 体性感覚 |
研究概要 |
本研究では、電気磁気生理学的手法による知覚-動作過程の反応解析を通じてヒトの高次脳機能の解明をめざしている。好悪を伴う行動における知覚-動作サイクルの脳解析に関しては,多くの商品画像を視覚刺激として順次呈示して,気に入った好きなものを選択する課題を遂行する際の脳磁場計測を行った。別の日には同一の被験者を対象に,以前に選択された商品画像を標的,選択されなかった画像を非標的として再構築したオッドボール課題(標的選択課題)を施行して,脳活動を分析し,2回の実験における個々の商品画像呈示~選択反応に対する大脳各部のα,β,γ周波数帯域活動を比較検討した。その結果,好きな商品を選んだ時に限って,視覚野の活動に続いて眼窩内側部前頭前皮質にγ帯域の高周波信号が賦活され,次いで前部帯状回に活動が及んだ。その後,選択-ボタン押しに関連する活動,すなわち補足運動野,前運動野・一次運動野,体性感覚野の活動が続いた。このように,ある商品画像を見たときに「欲しい」という願望が眼窩部前頭前皮質-前部帯状回の高周波活動として脳磁場計測で可視化できること,つづいて選択-ボタン押しに至るまでの脳内情報処理過程が100ミリ秒単位で可視化できることは,機能的MRIに対して脳磁場計測の有用性と時間分解能の優位性を示すものであり,今後のヒト脳機能の研究を飛躍的に発展させる可能性を秘めていると考えられる。 体性感覚反応に関しては,痛覚刺激に対する大脳誘発反応,交感神経活動が呼吸相によって変化することを見いだした(Iwabe, Ozaki & Hashizume, Neurosci Res 2014)。また正中神経刺激体性感覚誘発電位も刺激タイミング(呼吸相)によって変動すること,変動成分の起源は前頭葉にあり,自発呼吸が消失するとその変動も消失することから,呼吸と大脳活動の連動に関して新たな研究シーズが芽生えつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度には,(1) 好悪を伴う行動における知覚-動作過程の脳磁場解析,(2) 体性感覚反応の干渉刺激による変化,(3) 注意の焦点の変化に関する研究:注意レベル変動に係る前頭葉の活動変化の三項目について研究を進める予定であった。 課題(1)については,順調に進捗して,男女20例からデータ取得を行い, 既述のように解析を進めることができた。結果,ある商品画像を見たときに「欲しい」という願望が眼窩部前頭前皮質-前部帯状回の高周波活動として脳磁場計測で可視化できるという成果が生まれた。この研究過程では,同時に標的・非標的刺激をランダムに呈示して,標的刺激に反応するodd ball課題に伴う脳活動のデータ解析も行った結果,課題(3)についても一定の成果を得ることができた。非標的が繰り返し呈示されると,次には標的が来るという期待感とともに非標的に対する注意レベルは高まる一方,標的が一度出現すると,注意レベルは低下する。このような注意の焦点変化に関する解析は次年度詳細に検討する予定である。 課題(2)に関しては,データ取得を行ったものの,過去の研究継続と大学院生の指導に多くの時間が割かれた。そして,痛覚刺激に対する大脳誘発反応,交感神経活動には呼吸性変動があり,呼吸相によって痛み感覚,脳反応,交感神経活動が変化することを見いだした(Iwabe, Ozaki & Hashizume, Neurosci Res 2014)。この意味で,体性感覚反応の手指や顔などへの干渉刺激による変化の検討は進んでいないが,その代償として体性感覚反応が刺激タイミング(呼吸相)によって変動すること,変動成分の起源は前頭葉にあり,自発呼吸が消失するとその変動も消失するという新知見を見いだすことができた。結果,呼吸と大脳活動の連動に関する新たな研究シーズが芽生えつつある。 以上を鑑みて,研究は着実に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は,次のように研究を進める予定である。好悪を伴う行動における知覚-動作過程の脳磁場解析については,データのさらなる詳細な解析を進めるとともに,連携研究者井口義信氏と共著で,今年度の日本脳電磁図トポグラフィ研究会で「前頭前皮質と知覚-動作サイクル:あの商品が欲しいという願望は脳磁図で可視化できる」という演題名で特別講演を行う予定である。講演準備を進めるとともに,原著論文としての発表の準備を整える。 体性感覚反応に関しては,当初の干渉刺激による変化よりも,呼吸と大脳活動の連動に関する新たな研究シーズについてのデータ取得・解析を進めていく。既に痛覚刺激に関する反応,痛み強度,交感神経活動が呼気時には軽減することを発表したが,触圧覚の場合には痛みとは逆に吸気時に反応が減少する機序と変動成分の起源は前頭葉にあり,自発呼吸が消失するとその変動も消失するという新知見について,詳細に検討を行い誌上発表の準備を進めたい。 注意の焦点の変化に関しては,好悪を伴う行動における知覚-動作サイクル解明のテーマと同時に解析を進めていく予定である。また既述の課題に関して,あるいは自然界に存在しない複合音missing fundamentalsを聴取する際の脳磁場解析課題に関してのデータ取得と解析を行うために,全頭部被覆型脳磁界測定装置(160チャネルMEG Vision)が設置されている,金沢市の横河電機株式会社ライフサイエンス事業部MEGセンターに連携研究者の東京都総合医学研究所 井口義信氏らと月に一度の頻度で,週末に赴き,脳磁図の実験を行う。運動系に関しては,磁気刺激装置を用いて,経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位の呼吸性変化に関する検討も行う予定としている。
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次年度の研究費の使用計画 |
脳磁図実験のデータ収集のために,全頭部被覆型脳磁界測定装置(160チャネルMEG Vision)が設置されている,金沢市の横河電機株式会社ライフサイエンス事業部MEGセンターに1~2ヶ月に一度,2泊3日または3泊4日の予定で赴くはずであったが,連携研究者と都合が合わないことが1回,また入試業務など大学の本務で1回と出張回数が予定よりも2回少なくなったため。 今年度も7月から2015年3月まで,金沢市の横河電機株式会社ライフサイエンス事業部MEGセンターに頻回に赴いて,脳磁図実験のデータ収集を行うため,その出張旅費に充当する予定である。
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