研究課題/領域番号 |
25350612
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研究機関 | 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター |
研究代表者 |
古倉 聡 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター, その他部局等, 研究員 (80347442)
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研究分担者 |
石川 剛 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90372846)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 免疫監視機構 / 免疫抑制 / EMT / ハイパーサーミア |
研究実績の概要 |
ハイパーサーミアそのものは、腫瘍局所を加温することにより、抗癌効果を期待した治療法である。放射線療法や化学療法と併用すると相乗効果が得られることが知られている。我々は、腫瘍組織を加温するとどのような生物学的影響があるのかを検討している。 これまでの研究成果としては、(1)加温により腫瘍組織表面にMHC class I や癌抗原の発現が増強すること、(2)腫瘍組織全体として(癌細胞、間質細胞、浸潤マクロファージ、MDSCなど)、免疫を抑制するサイトカイン、特にTGFbやIL-6, IL-10の産生減少が見られる。(3)腫瘍組織中に浸潤している制御性T細胞が減少する、といった現象を確認した。ただし、これらの現象は、腫瘍を43度、60分加温して24時間後の現象である。また、細胞実験では、癌細胞をTGFbで刺激して、EMTを誘導し、これをE-Cadherinの減少、Vimentineの増加、あるいは、PCRにて細胞内シグナル伝達物質の変動で評価したが、細胞を加温することにより、このEMTをほぼ完全に抑制することができた。さらに、ある種の抗癌剤はEMTを引き起こすことが報告されているが、我々は、このような抗癌剤によるEMTも細胞を加温することで、EMTを抑制することが可能であることを示した。この観察も、温熱処理24時間後である。 このことから、ハイパーサーミアは、直接的な抗癌作用以外に、免疫療法を増強する効果、および、EMTを抑制する効果、すなわち転移抑制効果を有することが示唆されており、今後は、ハイパーサーミア施行後、どのタイミングでこのような現象がもっとも増強するのかを検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点では、温熱処理は、動物実験でも細胞実験でも、癌を加温後24時間の1ポイントで検討している。 従って、例えば、放射線療法なら、放射線照射直後、抗がん剤なら、抗がん剤投与中もしくは直後が、最も好ましいハイパーサーミアの施行時期であることが科学的に証明されているが、免疫療法との併用に関しては、場合によっては、ハイパーサーミア直後の免疫療法が併用効果が強い可能性もあり、その点を今後明らかとしたい(免疫チェックポイント抗体の投与時期も含めて)。また、移入する免疫細胞も現在は、常温(25度)で点滴移入しているが、最適な温度についても検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、動物実験において、ハイパーサーミア施行後、経時的に腫瘍組織を解析し、最も免疫抑制が強く解除され、また、MHC classIおよび癌抗原の発現の強い時期を見極める。すなわち癌組織の免疫監視機構が最も強くなっている時期を見つけ出す。そうすれば、この時期に免疫療法を施行するのが、免疫療法の効果発現が強く出ると考えられる。 また、移入リンパ球(ナイーブT細胞、NK細胞)が、癌に対する攻撃力の最も強い温度を調べる(現在は常温で細胞移入している)。好中球の場合は、活性酸素の産生能の最も高いのは、42度であった。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、研究室の異動などがあり、研究を一時止めた期間もあったため、本年度への繰り越し金があったが、本年度はほとんど予定通りの研究が進められたため、かなりの物品費を必要とした。 来年度は、前述した通り、ハイパーサーミアと免疫療法のタイミングの問題と、細胞移入する免疫細胞に適した温度、あるいは、適した体温について検討する。
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次年度使用額の使用計画 |
大きくわけて、動物実験と細胞実験の2つを計画する。 (1)動物実験:担癌マウスにハイパーサーミアを施行し、その直後から24時間後まで、経時的に腫瘍組織の免疫逃避機構について、検討する。検討項目は既に24時間後に見ている項目と同様とする。(2)細胞実験に置いては、がん細胞側の温度を変えて、免疫細胞は常温で投与する場合と、がん細胞は、37度で培養し免疫細胞の培養温度を変化させるという、2つの見方で、至適温度を判断する。
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