平成27年度は,昨年度までに行った研究結果を基に,病的音声(音声障害音声,構音障害音声)の症例数や音声数をさらに増やして音響分析と聴覚心理的評価を行い,病的音声の評価の手がかりとなる音響パラメータや評価の熟達者と初心者が評価の手がかりとする音響パラメータの違いなどについての検討を行った. 検討の結果,GRBAS尺度による音声障害音声の聴覚心理的評価では声の高さに関するゆらぎを示すPPQ,JPおよび,音声と雑音エネルギー比を示すHNR,NNEaが主に評価の手がかりに利用される音響パラメータであると考えられた.また,聴覚心理的評価の熟達度と評価に活用されるパラメータの違いについて検討すると,評価の初心者は主にPPQ,JPを評価の手がかりとしているのに対して熟達者は,これらの音響パラメータに加え,HNRやNNEaなど他の音響パラメータも評価の手がかりにしていると考えられた. 一方,構音障害音声の1つである側音化構音の評価に関しては,日本語50音表の「い」段と「え」段の母音部における第1,第2フォルマント(F1-F2)周波数の強度差とF2の共鳴の鋭さを表すQ値に加え,HNRと2.5kHz以上の雑音レベルも構音の異常度を評価するための手がかりであると考えられた. さらに,昨年度開発した聴覚心理的評価訓練・学習プログラムを言語聴覚士や言語聴覚士を目指す専門学校学生に試用してもらい,得られた意見を基にして学習アルゴリズムや操作画面インターフェースなどに改良を加えた.また,iPadなどの携帯型情報端末でも評価訓練・学習を可能とした.この結果,学習効果のさらなる改善が観測された.また,評価訓練・学習結果から側音化構音の評価は,評価の初心者でも評価の手がかりとなる音響パラメータに気づくことができると音声障害の評価に比べて短い学習時間で評価熟達者と同等の評価が行えるのではないかと考えられた.
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