つまずき等の転倒のきっかけの後,下肢を大きく踏み出すこと(以下,ステップ)で転倒を回避できるが,高齢者ではステップ後に不安定となり,実際の転倒に発展しやすい.この原因として,高齢者ではステップ着地後の姿勢が身体前傾位となりやすく,また下肢の一歩長が短くなりやすいこと等によって,身体重心の前方への慣性力を制止できずに,よろけるように転倒してしまうことが先行研究で明らかにされてきた.本研究では,このステップ着地時の不都合な体幹前傾姿勢に着目し,体幹の筋力や外乱に対する安定性を改善させる機能的トレーニングが,易転倒性のある高齢者のステップ着地時姿勢を改善させ,転倒予防に効果があるか検証することを目的とした. まず,転倒リスクのある高齢者とリスクのない高齢者において体幹筋力の違いがあるかどうかを検証した結果,両群で体幹伸展筋力に差がなかったものの,ステップ着地時の体幹伸展筋における筋電図活動量は転倒リスクあり群がなし群に比べて有意に小さかった.このことから,ステップ着地時の前傾姿勢を防ぐためには,最大筋力よりも,適切なタイミングで筋力発揮することができる協調性や瞬発力が必要であることが明らかとなった. 次に,転倒リスクのある高齢者14名に対し,8週間の体幹機能トレーニングを実施させ,介入期間の前後でステップ着地時の姿勢がどのように変化するか調査した.結果,トレーニング後に体幹と股伸展の最大筋力は14%と20%向上し,筋活動電位は11%と18%改善した一方で,ステップ着地時の体幹前傾角度と下肢の一歩長の比で示される着地時姿勢の安定性は3%変化したのみで統計学的に有意な改善は得られなかった. 本研究の結果,転倒リスクのある高齢者のステップ着地時姿勢の改善には,体幹機能トレーニングのみでは不十分で,下肢の筋力トレーニングやバランストレーニングを含めた総合的な運動が必要であると考えられた.
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