力学的エネルギー算出プログラムを用いて,健常者と変形性股関節症(OA)患者を対象に歩行時の力学的パラメータの計測を実施し,セグメントトルクパワー(以下,パワー)を計算した.さらに,当該パワーを3軸成分に分解し各方向のパワーをより詳細に検討することを試みた.また,表面筋電図計測も実施し,両者の特徴について検討を加えた.結果,歩行時立脚初期におけるパワー(w/kg)に関しては,健常者の場合,骨盤,大腿セグメントの平均パワーは,それぞれ-0.11,0.001であった.OA患者の場合,それぞれ-0.14,-0.28であった.さらに,3軸方向でのパワーを検討すると,回旋方向のパワーは両者共にゼロに近い値を示した.逆に,屈曲伸展,内転外転方向のパワーは両者共に高値を示した.特に屈曲伸展方向においては健常者では骨盤パワー(負値),大腿近位部パワー(正値)を示したのに対し,OA患者では共に正値を示した.筋電図に関しては,連続wavelet変換を用いた時間周波数解析を行った.そして,踵接地直後からの平均周波数(MPF)の変化量(Hz)を算出した.結果,健常者の場合,踵接地直後から歩行周期10%の間にMPFは15Hzの上昇が認められた.OA患者の場合,逆に16Hzの減少が認められた.以上の結果から,健常者とOA患者の大腿近位部パワーを比較すると,OA患者の方が,パワー値が大きい結果となった.これは,健常者に比べ大腿部の回転運動が大きい(不安定性)を示すものであり,股関節不安定性は大腿部に起因する可能性を示唆するものである.また,エネルギーの流れの特徴としては,OA患者では健常者のような大腿部から骨盤へのエネルギーの流れが生じていないことが示された.またMPFの上昇は,typeⅡ線維の活動増加が報告されており,大腿部の不安定性が,type2線維の活動性低下にも影響している可能性が示唆された.
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