研究課題/領域番号 |
25350663
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐川 貢一 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (30272016)
|
研究分担者 |
本井 幸介 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (80422640)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 二重課題 / 歩行 / 転倒 / 予測 / カルマンフィルタ / 動作計測 / 3次元 / 想起問題 |
研究概要 |
平成25年度は,運動情報と課題実施状況を同時記録するシステムの開発を行った。運動情報は,投球動作測定用無線センサ開発の経験を応用し,加速度センサ,ジャイロ,地磁気センサと,足の接地状態を認識する圧力センサで構成される小型3次元動作計測無線センサシステムを新たに開発して計測した。また,ZigBee準拠の無線プロトコルを有する無線モジュール採用し,センサの装着箇所や同時に計測する被験者数の増大に対応可能なシステムとした。センサ基板の大きさは28mm×32mmであり,9軸センサ,マイコン,マイクロSDカードスロット,拡張端子によって構成される。開発したセンサは,前腕,上腕,体幹上部,体幹下部,大腿部,下腿部,爪先の合計12箇所に装着する。圧力センサは,足裏に装着する。また,近年慣性センサによる動作計測に利用されている,拡張カルマンフィルタによるノイズ除去法と,角速度積分による動作計測法を適切に切り替える方法を適用し,計測時間の制限なく運動情報を高精度で測定する方法を提案した。そして,全身を剛体リンクモデルで近似して各部位の3次元角度を推定し,さらに足の接地状況を考慮して全身の歩行動作を再現することにより,重心(体幹下部)の3次元位置を推定することに成功した。運動情報の妥当性は,現有の光学式動作解析装置を利用して確認した。 また,二重課題歩行実験実施状況の同時記録については,被験者にワイヤレスマイクを装着し,ハンディカムで動作と音声を計測すると共に,被験者に追従して歩行するオペレータが,本研究で開発した二重課題歩行計測評価アプリを組み合わせて使用することにより,歩行運動のタイミング,回答開始および終了時刻,回答内容,回答数などの同時記録を実現した。健常高齢者を対象と二重課題歩行実験の結果,運動情報と課題実施状況の同時記録が可能であることが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は,二重課題歩行特性の時系列変化解析を実現するため,運動情報と課題実施状況を同時記録するシステムの開発を行うことを目標とした。 運動情報の測定システムについては,従来は足爪先一カ所の3次元軌跡から求めた歩幅や歩行率を利用していたが,平成25年度では3軸加速度,3軸角速度,3軸地磁気の合計9軸の情報が測定可能なセンサシステムを新たに開発した。また,12個のセンサシステムを同時に制御するための無線モジュールを導入するとともに,カルマンフィルタの適用によってそれぞれのセンサから求めた体節の方向が長時間高精度で推定可能になった。これにより,全身の3次元動作と重心(体幹下部)の位置で推定することが可能となり,全身の動作を含む運動情報の計測が達成された。 また,課題実施状況の同時記録については,少人数のオペレータによる二重課題歩行計測・評価実施のため,タブレット端末を利用した課題実施記録用アプリの開発を行い,その効果を実験により確認した。また,ワイヤレスマイクの導入と上記アプリの操作を行うことにより,被験者の運動情報と音声情報のタイミングを容易に合わせることが可能となり,課題実施状況の同時記録が実現した。その結果,実験実施の際,従来は5人のオペレータが必要であったら,本研究成果により1人で実施できるようになった。 以上のことから,研究の達成度はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度では,平成25年度に開発したシステムの有効性を検証するため,若年者を対象として想起問題を課す二重課題歩行実験の実施と,課題実施中の重心位置などの運動情報の時系列変化を数式により表現する方法を考案する。また,制御工学的評価法を利用し,課題負荷によって生じる運動情報の時系列変化量をモデル化して,転倒危険度として取り扱う方法を考案する。二重課題歩行実験開始以降,転倒危険度を表す運動情報の変化は,時間とともに徐々に変化するのか,または一時的に危険度が最大値に達し,その後減少しながら一定の値に収束するのかは不明である。ここでは,運動情報の変化を最小自乗法によってモデルに近似し,以下の値の導出を試みる。 (1)課題開始から一定の値に到達するまでの時間であり,危険度上昇の速さを表す整定時間 (2)危険度上昇の振動性を表す減衰率 (3)最終的な値(整定値)からのはみ出し量(オーバシュート) 課題負荷直後に転倒の危険性が最大となるのは,オーバシュートが存在する場合である。そこで,危険度と関連する運動情報が最大となる時刻以前に転倒予防策を講じることで,転倒危険度を劇的に低減できると考える。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度では,二重課題歩行実験実施時の全身の運動情報を測定するため,新たなセンサシステムの開発を行った。当初,開発の経費として人件費およびその他の項目に予算を計上し,センサシステムを多数作成することを予定していたが,センサシステムを実験で使用することによって,新たな機能の必要性が見いだされる可能性があった。そのため,一度に大量のセンサシステムを作成せず,仕様変更が発生することを考慮して,予定よりも少ない数の試作を行った。そのため,次年度使用額が生じた。 平成26年度では,平成25年度のセンサシステムの試作および実験での使用によって見いだされた,新たに必要とする機能や不要な機能について吟味し,より機能を洗練させたセンサシステムの開発を行う予定である。具体的には,歩行中の重心の不安定性を評価する方法として,足圧の分布状況を測定する機能を取り入れることを検討する。また,複数のセンサシステムを同時制御するための無線プロトコルとして,これまではZigBee準拠の無線モジュールを使用していたが,新たにBluetoothやWi-Fiなどのプロトコルの導入も検討する。さらに,それらの無線プロトコルに合わせ,センサの制御や二重課題歩行実験の結果をリアルタイムで記録するためにタブレット端末のアプリ開発も行う。
|