研究課題/領域番号 |
25350673
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研究機関 | 埼玉県立大学 |
研究代表者 |
原 和彦 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 教授 (70325984)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 義足ソケット / 適合評価 / 三次元形状評価 / ソケット内圧 / 歩行分析 |
研究実績の概要 |
義足をうまく使いこなすにはソケット適合を得ることが第1条件となる。このソケット形状と適合圧の関係を解明してより良い適合支援の構築を目指した本研究の26年度研究実績の概要を説明する。26年度は適合しているソケット内圧を動的条件下で検索を加え、義足歩行時のソケット内圧と義足下肢の関節モーメント制御との関係に着目した実験を下腿切断者2例について行った。この内圧と関節モーメント計測にはソケット内圧はF-ScanⅡ(ニッタ社製)を使用して、ライナーとソケット間の圧力値をサンプリング周波数100Hzで計測した。内圧分析は、ソケットの前壁上部と後壁下部の平均圧を屈曲成分、前壁下部と後壁上部の平均圧を伸展成分として想定し、伸展方向差分圧を算出した。三次元動作解析はVicon MX(OMG製)を使用し、計測ソフトはVicon Nexus1.7.1、剛体モデルはPlug-In Gaitを使用し、サンプリング周波数100Hzで計測した。なお事前に被験者には、本研究の趣旨および研究倫理的配慮に関する説明と同意を得て実施した。 3次元形状評価システムの構築のための、断端とソケットの形状計測について、デジタルカメラ法による形状計測の手法はすでに一般的にもほぼ確立しているため、本年度は断端とソケット形状からFEM解析を行う準備段階としてCT、MRIによる計測検討を行った。その結果、研究倫理を考慮した被爆のないMRI計測手法を選択して、断端残存肢の骨、筋、軟部組織、断端ライナーの形状計測を行った。MRIによるDICOM (Digital Imaging and communications in Medicine)データから3D形状データフォーマットSTL(Standard Triangulated Language)への変換を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度には下腿切断者の適合ソケットの動的内圧の変化状況を計測して、ソケット内圧変化とVICON三次元動作解析システムを使用した義足歩行制御に関連する関節モーメント計測を同時に計測して検討を行った。義足歩行の制御力となる関節モーメント計測にはVICON三次元動作解析装置と床反力計を用いた逆動力学分析により関節モーメントを算出した。この関節モーメントとソケット内圧の動的変化について分析を行った。その結果、この動的ソケット内圧変化は下腿切断端の矢状面の動きとなる屈伸と前額面の動きとなる内外転、また水平線面の動きとなる内外旋の圧力作用により義足制御と歩行の力源を生み出していた。このように26年度にはこの生体力学的適合状態を検索するべく、ソケット内で生じた力学的作用と義足制御に関係する力学的検証を中心に分析を行ってきた。本研究成果については、第30回日本義肢装具学会、第1回日本支援工学理学療法学会にて発表を行ったが、全ての力学的作用の分析までは至ってはいないなどの研究課題も残っている。 また26年度は非接触式3D形状計測法による断端とソケット形状計測の試みとして、27年度予定のFEM解析実験の準備として、MRIによる断端残存肢の骨、筋、軟部組織、断端ライナーの形状計測を行い、MRIのDICOMデータから断端を矢状面で70枚程度のBMPデータに変換し、このBMPデータから3次元形状データ変換ソフトV-Cat(和光理化学研究所)を利用して、3D形状データフォーマットstlファイルに変換することができた。MRI計測は、放射線技師の協力を得て断端皮膚、脂肪、筋組織、骨組織のDICOM による3次元情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度(最終年度)は、昨年度計測を行ったソケットと断端形状から義足装着時のソケット内圧を有限要素法(FEM;Finite Element Method)による解析を行う予定となっている。すでにソケット適合を得て、日常生活に支障なく社会復帰している下腿切断者の断端とソケットの形状のMRI、DICOM、BMP、STLの異なるフォーマットのデータファイルを再度整理して、3D形状データを利用したFEM解析を行う。この解析を行うためには、モデリングのキャパビリティの広さやカスタマイズ可能で学術研究でも広く利用されているABAQUS(製品名Similar academic research suite)をレンタル使用することとした。本FEM解析ソフトは研究協力大学(埼玉大学理学学研究科)において、すでに多様な工学的研究で使用されているものであり、そのノウハウを利用した連携研究を行うものである。 また断端皮膚皮下の軟部組織、骨組織の割合について検討を行い、デジタルカメラを利用した非接触式3D形状計測法による皮膚表面形状から骨形状を推定してFEM解析を行い、ソケット内圧を推定するソケット適合解析手法の可能性、妥当性について検討を加える。合わせて25年度、26年度継続的に行った適合ソケットでの動的歩行条件下での義足制御力とソケット内圧変化との関係を整理して論文化することを目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に購入予定のFEM解析ソフトは簡易版を想定していたが、解析データの操作性の高いソフトをリース契約にて取得するように計画変更した。これは本研究協力大学(埼玉大学大学院理工学研究科)と同様のFEM解析ソフトであり、データ解析方法の検討などの研究を協働して行うことを可能になる。ソフト購入は高額であるために1年リース契約とするように計画変更した。このため26年度購入予定の3D形状計測解析用ソフト購入は行わず、3次元計測用画像取得システムでの計測はコストを下げて外注にて行い、この差額を27年度実施のFEM解析システムのリース使用へと研究環境の整備を行う予定である。この計画変更により26年度実施したMRI計測で得たDICOMデータをさらに、断端の骨、筋、皮膚までの3次元CAD-CAMデータを用いたFEM解析を行うことが可能となることが見込める。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は25年度、26年度研究成果をまとめてフランス、リヨンでの世界義肢装具学会(ISPO)への参加のための旅費、参加費、諸経費(400,000円)、3次元計測用画像取得システムでの計測外注費(600,000円)、ABAQUS(製品名Similar academic research suite)リース料(575,000円)、学外でのFEM解析ソフト使用のPC環境整備のためのPC購入(100,000円未満)、計測したDICOMデータから断端残存肢の骨、筋、軟部組織、断端ライナー形状への3次元形状データ変換には膨大な画像データの処理が必要となるために、その作業を行う人件費(200,000円)、被験者謝金等(50,000円)、論文投稿費用、その他事務消耗品を見越しており、予定していた研究費は全て使用する見込みとなる。
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