腕筋,回外筋からワイヤー電極により筋電図を導出するために,超音波画像,屍体解剖等により電極刺入部位を決定し,これらの筋の筋電図を測定するための計測システムを構築した.対象は健常成人男性6名とした. 回外筋においては,肘関節の外反運動課題を実施し,その際の回外筋活動と肘関節角度および前腕肢位との関係について筋電図学的に検討した.その結果,回外筋は外反運動時においても筋活動が増大することが明らかとなった.しかし,その筋活動は回外位では最大筋活動量が20~40%であったのに対し,回内位では1~3%と極めて低い活動であった.このことから,外反運動時に生じるこの特異的な筋収縮特性は回外肢位に限局されたものであり,外側側副靭帯複合体を補助し,肘関節を動的に支持する機能は,回外肢位においてのみ発揮される可能性があると考えられた. また,回外筋,上腕筋において,前方へ体幹を傾斜させ倒れたときに手掌を接地,支持する転倒模倣課題を実施した.上腕筋においては,浅頭,深頭からも筋電図を導出し,活動特性を検討した.回外筋は,手掌接地前10 0msから急峻に活動が増大し,その活動は接地後も継続した.回外筋は最大活動の60%に達した.上腕筋深頭の筋活動も手掌接地前100msから活動が大きくなり,接地前50msから接地後150msの間で浅頭に比べて有意に大きい値であった.特に接地の50msでは最大筋活動の約28%まで達した.本研究にて設定した課題動作は肘関節の後方脱臼を誘発する力を発生させる動作であり,肘関節に安定性が要求される.その際に回外筋,上腕筋深頭の筋活動が増加したことから判断すると,これらは肘,前腕運動以外に,肘関節の安定性を高めることにも貢献しているのではないかと考えられた.加えて,手掌接地に先行した筋活動は,接地時における筋収縮張力を効果的に発生させやすくしている現象と考えた.
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