研究課題/領域番号 |
25350702
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久代 恵介 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (60361599)
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研究分担者 |
五島 史行 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80286567)
山本 真史 大阪体育大学, 体育学部, 助手 (40736526)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 空間識 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒトの持つ平衡機能をより良く理解し、それを定量する方法を改善したいという動機から始動した。本研究プロジェクトの遂行は、高齢者に頻発する転倒事故や、空間識失調発生のメカニズムの一端を解明すると期待される。平衡機能をより良く理解するということは、3次元空間を動的、および静的に正確に把握することを意味する。このことは、障害や疾病の発生機序解明に貢献できる可能性のほか、日常の身体運動の制御メカニズムと深く関わる。なぜならば、重力空間で身体を自在に動かすことの前提として、中枢が運動を生成するためには、元となる3次元空間情報を正確に取得することが必須であるからである。これによって初めて目的とする行為が達成されることになる。 当該年度は、平衡機能と空間認知が運動パフォーマンスにいかなる効果をもたらしているかについて調べた。平衡機能と空間認知は、視覚、体性感覚、前庭覚といったセンサーからの情報に基づき、中枢で達成されている。特に視覚は、身体に固定されない、いわゆる重力座標系に基づいた情報を中枢に供給することができる数少ない空間のセンサーとして機能する。このため、視覚が運動の正確性や安定した姿勢の維持に果たす役割は小さくない。我々は、空間内で上肢を用いた繊細な運動を行おうとした際、暗黙下に視覚の影響を受動しながら運動を遂行しているのではないか、という仮説を設定し、これを実験的に証明することを試みた。その結果、上肢運動は、背景の遠近によって難易性が異なる可能性を示すデータを得た。このことは、身体の平衡と空間の知覚には、操作対照となる物体の情報のみならず、周囲から付随的に入力される情報が、意図した運動の遂行に暗黙下の影響を及ぼしている可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究プロジェクトは、重力空間内で身体の安定性と運動の正確性に必須とされる平衡機能のメカニズム解明を目指して行われている。さらに身体の平衡機能を得るために効果的な方策の確立を試みる。日常において、平衡機能が乱される状況は動的な場面が圧倒的に多い。そのため、ヒトに動的な外乱刺激を加えて得られる反応から、身体の平衡に関わる様々な要素を同定し、それらを元に身体の安定に活かす方法を見出したいと考える。当該年度は、外乱発生装置の再改良の必要性が生じた事由より外乱の付加は省き、静的な姿勢で行う上肢運動と平衡機能との関係性に関する実験に注力した。その結果、いくつかの新たな知見を見出すことができた。当該年度の研究成果より、平衡機能と空間の知覚は、空間内で行う運動の操作対照のみならず、周辺から付随的に入力される情報に修飾されている可能性が示唆された。本研究プロジェクトは、ヒトの平衡機能は身体機能で表現(説明)されることに止まらず、より高次な認知プロセスによって形成されているという予測のもとに始められた。当該年度に得られた結果は、プロジェクト開始当初に我々が考えていた平衡機能と空間認知という概念の理解において、当初の予測以上の慎重さと注意を要することを示したと思われる。すなわち、平衡機能と空間認識には、主体のみならず、周辺から得られる無意識下の情報が、空間の知覚レベル、あるいは運動の生成レベルで何らかの影響を及ぼしていると考えるのが妥当である。このことは、今後、3次元空間内で被験者に外乱を負荷して平衡機能を調べる際、重要かつ注意すべき新たな変量と捉えるべきであり、平衡機能と空間知覚のメカニズムのより包括的な理解な理解に繋がると確信する。以上をもとに行った自己点検評価は、当該年度に得られたこと、そして実現できなかったことを憚らずに盛り込んだ結果であることをご理解いただきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は、ヒトが3次元空間をより良く理解し、重力空間内で身体が安定するための平衡機能のメカニズム解明と、それを効果的に獲得する方策を確立することである。当該年度の研究成果より、視覚的背景の遠近が上肢の運動制御に影響を及ぼしていることが示唆された。このことは、運動の生成に必要とされる感覚入力は、身体傾斜に由来する前庭覚や体性感覚、さらに対照物への注視による視覚入力のみならず、不随的(無意識的)なもの、すなわち周辺視野への空間情報が空間内での運動に関わることを示唆する。したがって空間の理解には、主体的に得られる感覚情報のみならず、環境に依存した情報をも中枢は考慮していると考えられ、複雑で高次な認知プロセスを含めて考慮する必要性を改めて感じる結果となった。当初、身体の平衡と空間の理解には、注意・予測・学習という概念が効いてくることを想定していたが、今後はそれらに加えて、主体を取り囲む周辺情報をも考慮しながら、包括的理解に向けて取り組んでいきたい。さらに、重力空間内で身体を安定維持させるための方略獲得へと研究の焦点を発展させていきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置改良の必要に伴い、実験回数が予定を下回ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験実施に伴う費用全般の他、成果発表、旅費、謝金等に使用する予定である。
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