研究課題/領域番号 |
25350704
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井福 裕俊 熊本大学, 教育学部, 教授 (70193638)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水泳競技者 / 陸上競技者 / 筋機械受容器反射 / 静的な筋ポンプ作用 / 心臓収縮性 |
研究実績の概要 |
水泳競技者は微少重力下でトレーニングを行っているため、陸上競技者と比べ抗重力筋の発達の程度が小さいことが予想される。水泳競技者と陸上競技者において、立位時の下肢の抗重力筋に特徴的な働きが見られるかどうかを明らかにし、両競技者の静的な筋ポンプ作用と筋機械受容器反射による血圧調節メカニズムの解明を行った。 被験者は水泳競技者7名、陸上競技者7名であり、いずれも短距離種目を専門とする非持久性競技者であった。また、対照としてその他の競技者を6名用いた。これらの被験者に、前年度と同様、4種類の体位変換試験(1. Head-up tilt、2. Head-up suspension、3. Head-up tilt + 静脈阻血、4. Head-up suspension + 静脈阻血)を実施した。 二つの主要な知見が見いだされた。一つは、立位時において筋機械受容器反射が引き起こす心拍数の増加と心臓収縮性の増強(前年度の研究成果)が、水泳競技者には見られなかったこと、もう一つは、陸上競技者では両応答が見られたが、特に心臓収縮性の増強が他の競技者より有意に大きかったことである。これらのことから、立位姿勢における下肢抗重力筋の収縮による筋機械受容器反射の作用が水泳競技者で弱く、逆に陸上競技者では強いことが明らかとなり、下肢の抗重力筋の発達の程度が立位時における筋機械受容器反射の作用に影響を及ぼすことが示唆された。 本研究成果は、運動トレーニングによって下肢の抗重力筋を発達させることで筋機械受容器反射の作用を増強させることができることを意味するものであり、次年度実施予定である「自重負荷を用いた下肢のレジスタンストレーニングによる起立性低血圧の改善」が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究目的」は、1)抗重力筋の働きを静的な筋ポンプ作用と筋機械受容器反射に分けて評価し、これらの働きによる立位時の血圧調節機構を明らかにする 2)立位時の筋機械受容器反射は心臓または血管のどちらの器官に優先的に現れるのか、また、心臓であれば心拍数と心臓収縮性のどちらに、血管であれば心臓に近い大動脈と筋に近い末梢動脈のどちらに優先的に現れるのかを明らかにする 3)アスリート(特に水泳競技者と陸上競技者)や起立性低血圧者の抗重力筋の働きを調べ、被験者群に特徴的な働きが見られるかどうかを明らかにする 4)自重負荷を用いた下肢のレジスタンストレーニングによる起立性低血圧の改善効果を検討する である。 これらに対し、現在までの2年間で次のような成果を得ている。1)抗重力筋の働きを静的な筋ポンプ作用と筋機械受容器反射に分けて評価したところ、これらの働きによる血圧調節機構を解明することができた。2)立位時の筋機械受容器反射は心臓に優先的に現れ、血管には影響しないこと、そして反射が現れた心臓においては、交感神経活動を通して心拍数と心臓収縮性の両方が増加することを明らかにした。3)立位姿勢における下肢抗重力筋の収縮による筋機械受容器反射の作用は水泳競技者で弱く、逆に陸上競技者では強いことを明らかにした。これらの成果は、上記の「研究の目的」の1)2)と3)のアスリートに関する部分について明らかにできたことになる。残るは起立性低血圧者に関する研究のみとなった。 以上より、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果をもとに、計画通り、対象を起立性低血圧者に移し、応用研究として「起立性低血圧者の抗重力筋作用の比較」や「下肢のレジスタンストレーニングによる起立性低血圧の改善」を行う。前者は起立性低血圧者における抗重力筋の働きを調べ、他の被験者群と比較して特徴的な働きが見られるかどうかを明らかにするものであり、後者はトレーニングによって起立性低血圧が改善するかどうかを調べ、改善したならば血圧調節因子のうちどの因子によるものかを明らかにするものである。 課題は、今年度から起立性低血圧者を探しているが、なかなか見つからないことである。被験者を起立性調節障害者まで広げることを視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
順調に実験を遂行できたので、消耗品の使用が極力抑えられ、前年度購入していた消耗品だけで賄えたこと、そして前年度の繰越金を使用するに至らなかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は被験者として起立性低血圧者を用いるが、現在見つかっておらず、被験者を探すための実験を相当数行うことが予想され、多額の消耗品費の使用を見込んでいる。 また、血圧測定の際に自動血圧計に心電図の導入が必要であるが、心電図用の増幅器の動作が安定しないため、血圧測定に支障をきたすことがある。心電図用の増幅器の購入を予定している。
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