最終年度は、自重負荷を用いた下肢のレジスタンストレーニングによる起立性低血圧の改善効果を検討した。起立試験を行った被験者18名のうち起立性低血圧者は3名であり、内訳は最低血圧の減少による者2名(被験者A、B)、最高血圧と最低血圧の両方の減少による者1名であった(被験者C)。この3名に2ヶ月間、自重負荷を用いた下肢のレジスタンストレーニングを行わせた。その結果、被験者全員に起立性低血圧の改善がみられた。 さらに、トレーニング前後で、この3名に4種類の体位変換試験(Head-up tilt、Head-up suspension、Head-up tilt+静脈阻血、Head-up suspension+静脈阻血)を行い、起立性低血圧の改善要因を検討した。その結果、被験者Aは筋機械受容器反射の増強と動脈圧受容器反射の感受性の上昇が、被験者BとCは動脈圧受容器反射の感受性の上昇が改善要因であることが示唆された。 本研究は、立位時の抗重力筋の働きによる血圧調節機構(静的な筋ポンプ作用と筋機械受容器反射)を明らかにした上で、アスリート(特に水泳競技者と陸上競技者)や起立性低血圧者における抗重力筋の働きの特徴を調べ、下肢のレジスタンストレーニングによる起立性低血圧の改善の可能性を探ることであった。主な成果は、①立位姿勢における下肢の抗重力筋による筋機械受容器反射は、血管には影響せず心臓に作用して血圧の維持を図ること、②下肢の抗重力筋の発達の程度が大きいほど筋機械受容器反射の作用が強くなること、③自重負荷を用いた下肢のレジスタンストレーニングにより起立性低血圧の改善がみられることであった。今後、学校現場で自重負荷運動を取り入れ、児童・生徒の起立性低血圧の改善へと展開していきたい。
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