本研究は、知覚-動作遂行過程における認知的情報処理の介入の検討を課題とした。標的を掴む動作(Grasping)や標的の大きさを認識してGraspingと同様の動作にて表現する課題(Size-matching)を用いて、Ebbinghaus効果による標的の大きさ知覚の錯視を誘発する状況を設定し、動作遂行への錯視の影響という観点から、課題遂行への認知的情報処理の関与について検討を試みた。期間中に以下の検討課題を予定した:①課題動作への錯視効果の有無、②課題遂行への認知活動を抑制する条件下での錯視効果、③上記課題遂行時の脳波分析。2013~2014年度は、上記①②に関する実験を行い、「錯視効果は視覚情報処理に要する時間枠に影響される」という知見を発表した(Journal of Motor Behavior、2014年2月)。さらに課題②に関して、2次的(選択反応)課題を同時に課した実験条件での錯視効果を検討した。分析結果は神経科学の国際学会(Society for Neuroscience 2104)にて発表した。これをもとに、2015年度にはデータの追加分析を行い、論文作成・投稿中である。また、これら研究の背景となる運動制御理論の概説について書籍の執筆を担当した(医学書院、2015年)。予定していた課題③だが、学会での情報収集や最近の関連研究の動向より、脳波分析に取り掛る前に検討すべき課題を見出した。それは、上記実験方法の応用により、「無意識的情報処理を経た認知的処理を要する課題の遂行」の検討が可能となる。2015年度は、実験デザイン構築の予備実験に時間を要しため、年度内の成果発表には至らず継続中である。これと並行して、課題①の実験による脳波データを、錯視効果の点から分析している。今後はこれらの成果を得るとともに、本研究にて構築した実験パラダイムを用いて、さらに検討を重ねるつもりである。
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